世界樹の迷宮

世界樹の迷宮 〜去りゆくモノたちへの鎮魂歌〜

著者・嬉野秋彦先生。挿絵・日向悠二先生。著者の嬉野先生はファミ通文庫から「虎は踊り、龍は微笑む」などや「ホルス・マスター」などのシリーズを出されています。日向先生は原作ゲーム「世界樹の迷宮」のキャラクターデザイン担当で、ファミ通文庫では「吉永さん家のガーゴイル」の挿絵も担当していますね。
・登場人物
パーティリーダーで女レンジャーのゼノビア、以前ゼノビアが所属していたパーティのリーダーだった男パラディンのフェイゲン、兄を迷宮で亡くし酒場で働き日々戸口を凌いでいる男バードのカミル、修行の為に迷宮に潜る性別不承ブシドーのオトワカ、血気盛んな男ソードマンでフェイゲンを目の仇にするロジェロ、皮肉屋でクールな知識を知る事を生甲斐にしている男アルケミストバルサス。メインはこんな感じで、他にゲームに登場していたギルドマスターや酒場の女将さん、執政院の人、などが出てきます。
・シナリオ
世界樹の迷宮”――小さな街エトリアにあるその巨大な樹海には、富、名声、権威、すべてがあると言われている……。
エトリアにある金鹿の酒場で働く気弱な少年カミルは、酒場の手伝いと、美しいリュートを奏でることで故郷に帰るための路銀を稼いでいた。そんなある日、カミルのリュートを耳にしたゼノビア一行に、冒険で失ったメディックの代わりにバードとしてパーティに加わらないか、と誘われる。しかしカミルは、かつて迷宮で負った大きな心の傷を抱えていたのだった――。
超絶人気の大ヒットRPG、オリジナルストーリーで待望のノベライズ!(ファミ通HPより抜粋。)
・感想
世界樹の迷宮』というゲームをベースにしたファンタジー冒険小説、といった感じですね。
ひとつのパーティーが解散の危機に陥り、その状態から脱する為に新メンバーを加えようとする。しかし軋轢や衝突があり、結果パーティは大きく変わる―――…という、ひとつのコミュニティの変化を取り上げている話ですね。
ゲームのノベライズということですが、そもそもゲームの登場人物としてのキャラクターたちには「個性」というものがありません。プレイヤーが作ったゲーム世界での写し身であり、ゲームの「ダンジョンに潜り話を進めていく」という特性もあってゲームでは個性が必要なかったんですね。ですが、この小説ではそうもいかないので、それぞれ個々に個性―――性格が設定されています。その各自の性格と役割が、この作品の大きな魅力ですね。かつてゲーム『世界樹の迷宮』をプレイした人なら、「自分のパーティとはまた別のパーティの苦労話。ゲームではありえない『プレイヤーキャラクター同士の衝突』かぁ」として楽しめるでしょうし、未プレイの人も「見えない所でこんな事もあるかもしれない、と空想できるファンタジー小説かぁ」と、『世界樹の迷宮』というものを知れるでしょう。
ファンタジー小説としてはとてもオーソドックスな展開だと思います。メンバーの離脱に次ぐ離脱。リーダーの旧友を襲う悲劇。戦えなくなった旧友とリーダーの和解と、新しい一歩のための努力。新米同然の彼に襲う挫折。仲間との協力としかし最後に自分で決断して前に出る成長。そして最後に向かうは多くの冒険者を血の海に沈めた迷宮の暴君『森の王』への挑戦―――など。そういった一種オーソドックスな展開が多い王道的な話ですが、それだけにキャラクターの魅力がこの小説のすべてを司り、キャラクター個々の魅力と存在感がこの作品を「読んで面白いファンタジー小説」としてくれていましたね。