ブレイドライン1

ブレイドライン アーシア剣聖記

著者・水野良先生。挿絵・津雪先生。著者の水野先生はファンタジー小説の金字塔「ロードス島戦記」を書かれた大物作家先生であり、「魔法戦士リウイ」シリーズなどのファンタジー小説の代名詞を数多く世に出されていますね。挿絵の津雪先生は電撃文庫ウェスタディアの双星」シリーズ、GA文庫迷宮街クロニクル」シリーズの挿絵などを描かれています。
・登場人物
ヒエン:主人公。神明流刀術を使い、小太刀二刀で『総受一攻』を極意に攻撃を受けることに関して目を見張る技量を見せる武使。
セラ:ヒエンの母。いにしえの種族・妖精の姿をしている。
スズリ:神明流に弟子入り志願をしていた少女武使。
アモン:帝都シスイに住む武使。帝都でヒエンと懇意にし、彼の修行相手も勤めていたヒエンの兄貴分。草薙流刀術の次期当主。
ミオリ:帝都シスイの茶屋「翡翠亭」で働く少女。気が強く、ヒエンを憎からず想っているが自覚は無く、ヒエンの朴訥さもあり厳しく接する。
ヤクモ:帝都シスイの武使で、八雲退魔流の使い手の退魔師。
キリハ:ヒエンの幼馴染でアオイ島主の娘。自ら船に乗り海賊とも戦う。
レンザ:アオイ島主。キリハの父。
トオリ:キリハの船の舵取りを勤める青年。
ヤカミ:アオイ島神主の老婆。
スクネ:馬頭鬼。
コブト:牛頭鬼。
ミムラ:中海の盟主。
アイバ:トモイ群島の頭領。鬼道衆と組み、中海の覇権を狙う。
トキノ:鬼道衆の鬼女。羅刹女とも呼ばれる強力な「鬼」
クオン:剣聖クオンと呼ばれる武使。ヒエンの父。かつてはアーシア最強と謳われた。
・シナリオ
唸る剣風、轟く剣戟!ここはアーシア、火花飛び散る刃の世界—。帝都シスイを恐怖に陥れる魔物の横行。武者修行に励む少年ヒエンは、事件の背後に強大な悪鬼たちの存在を知る。やがて悪魔の横行は、アーシア全土を巻き込むものへと発展。戦乱吹き荒れる世界を駆けるヒエンの行く手には何が待ち受ける!?剣豪、刺客に妖怪、妖魔、まとめて向かってきやがれ!疾風怒涛のアジアン・ソードオペラ、この太刀筋、全力で受けてみろ。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品はアジアン・ソードオペラと称しているだけあって東洋的なイメージの強い作品です。
刀などで武術という特殊な技を使う武人という意味で『武使』という存在があり、主人公であるヒエンはその武使でありより強くなるための武者修行中。世界全体をとっても街道は整備されていてもまだ荒野な部分もあったり、食事所や宿場が茶屋であったり酒宿と称されていたり、船なども洋風なものではなく東洋的で早船などであり、悪役は「鬼」と呼ばれる存在で魔物とか怪物というよりは妖怪、妖魔、魑魅魍魎というような、全般的にアジアなイメージです。サムライ・ファンタジーとでも言いましょうか。
話の内容としては、主人公のヒエンが帝都で騒動に巻き込まれた結果妖怪退治のような事をしたところ、それがどうやら故郷を襲った鬼の一団と関係があるらしいと発覚する。それ以外にも理由があり故郷に戻ると、鬼の一団が故郷を含む周辺で何かしら企み事を為そうとしている。ヒエンは故郷を守るため、鬼の一団との戦いに身を投じる―――そんな流れです。
この作品で目を引くのはやはりアクションシーンでしょうか。小太刀二刀を使った受けを前面に押し出したバトルという、ラノベでの剣戟物としては珍しい特徴。ヒエンは受けの修行しか殆どしておらず、バトルシーンは一進一退の攻防というものではなくあくまで一方的にヒエンが攻撃を受け続けて、隙を突いての一撃逆転を見せるというもの。攻めては守り、守っては攻めてというような駆け引きがこの作品のバトルシーンにはあまりありません。もちろんまったく無いわけではなく、素手での戦闘やヒエン以外のバトルシーンでは従来通りのものもあるため剣戟物としての基本も押さえています。ですがその分、小太刀による受けばかりの展開で逆転を決めた時の爽快感はかなりのもので、逆に逆転できなかったときの衝撃はヒエン同様に驚愕し、また読み手としても「ここからどうするのか!」と先の展開に期待を抱かずにはいられませんでした。
また刀を使ったバトルシーンだけでなく、サムライ・ファンタジーの「ファンタジー」部分としてはヒエンの母、サラが妖精族ということで霊的な存在を使役する力を見せてファンタジーな部分を示していました。敵である鬼が鬼たちを乗せて動き回り、船をあっさり破壊するような巨大な鬼を持ち出したところ、サラが神獣と呼ばれる存在を呼び出して怪獣大決戦を始めるなど、等身大のバトルものだけでないところを見せていました。
それにラノベのお約束である恋物語も、ヒエンが純情ながら年頃の少年と言うことで色々あります。ヒエンが自分に心を寄せてくれる相手なら誰でも良い、というスタイルだけにヒエンに我知らず想いを寄せている茶屋の娘との関係が進まないとか、ヒエンと姉弟同然で育ったキリハが再会した成長したヒエンに惹かれたりするもヒエンが一線を越えるのに臆してこれといった進展は無いとか、ラノベらしいやきもき感のある青春話があちこちにありました。
総じて、この作品は実力のある作家先生によるアクションやラブも十全なバランスで配されたアジアテイスト・ファンタジーの新シリーズ作品で、時代劇のような生活風景、剣と体術によるアクションの多い戦闘、巨大な物の怪と仙術的な要素で呼び出された神獣との巨大戦と、見所の多い、次の巻も楽しみにできる作品でした。