アクセル・ワールド1

アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)

アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)

アクセル・ワールド1 黒雪姫の帰還

著者・川原礫先生。挿絵・HIMA先生。第15回電撃小説大賞「大賞」受賞作品です。ネット上で「超絶加速バーストリンカー」として発表されていた作品の、改題、改訂作品だそうですね。
・登場人物
主人公は小太りな体系でおどおどとした引っ込み思案のいじめられっ子だが、ゲームが得意で『ブレイン・バースト』のゲーム世界では「シルバー・クロウ」となる有田春雪。ヒロインは生徒会副会長で春雪に『ブレイン・バースト』のアプリを渡し、彼をバーストリンカーにした『親』にして自身も名うてのバーストリンカーである通称「黒雪姫」。
サブキャラクターは春雪の幼馴染で面倒見の良い女友達である倉島千百合。春雪、千百合と3人で小学生時代以前から付き合いのある文武両道に出来る黛拓武。春雪をいじめていた不良グループのリーダー格、荒谷。
・シナリオ
どんなに時代が進んでも、この世から「いじめられっ子」は無くならない。デブな中学生・ハルユキもその一人だった。彼が唯一心を安らげる時間は、学内ローカルネットに設置されたスカッシュゲームをプレイしているときだけ。仮想の自分を使って“速さ”を競うその地味なゲームが、ハルユキは好きだった。季節は秋。相変わらずの日常を過ごしていたハルユキだが、校内一の美貌と気品を持つ少女“黒雪姫”との出会いによって、彼の人生は一変する。少女が転送してきた謎のソフトウェアを介し、ハルユキは“加速世界”の存在を知る。それは、中学内格差の最底辺である彼が、姫を護る騎士“バーストリンカー”となった瞬間だった。ウェブ上でカリスマ的人気を誇る作家が、ついに電撃大賞「大賞」受賞しデビュー!実力派が描く未来系青春エンタテイメント登場。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は第15回電撃文庫小説大賞で『大賞』に選ばれた作品ですが、昨今、しんみり系や涙を誘うようなシリアス形の作品が多い中、これはライトノベルの基本に忠実、とでも言うべき爽快アクション活劇仕立ての作品です。でもそれだけに収まらず、きちんと少年少女たちの内面―――感情に関しての記述もあり、そういった内容のバランスが見事に取れて調和されている良作だと思います。近未来を舞台にVRMMO―――ヴァーチャル・リアリティ・MMOというゲームによって関わっていく若者たちの、アクション性の高い青春群像劇、というのがこの作品の魅力ではないでしょうか。
主人公のハルユキは、主人公としては珍しくマイナス・ポイント―――人間的にそれは持っていたら駄目だろう、とされやすい特徴を多く持っている高校生男子です。小太り、内向的、汗っかき、ドモりやすい、などなど、社会に溶け込むにはネックとなる特徴の多い、いじめられっ子と呼ばれるタイプが持つ特徴をかなり多く所持している。ですが、だからこそこの主人公には共感を抱きやすいです。特徴の無いのが特徴というような、『普通』の少年であればそれはプレーンな存在として感情移入もしやすいでしょう。しかし、ハルユキのような多くの欠陥を持つ主人公も、それはそれでどこかに自分と共感できる―――読み手が同族意識、或いは仲間意識などを感じ、感情移入しやすいキャラクターです。そういう意味では多くの欠陥を持つ主人公にすることで、読み手に主人公の立場と感情を共感させやすくする―――所謂『目を引く』『先の展開に興味を持たせる』ことに主人公という存在ですでに成功している作品である、ともいえるでしょうね。
ヒロインは美人で生徒会副会長で高嶺の花でと、一見、探せばけっこうラノベではいそうなヒロインなのですが、彼女の内面での挙動が一見あけすけなように見えて実は見える以外にもあるという複雑さで、年頃の女性らしい気難しさを見せたり、千百合と春雪の関係に嫉妬したりと、凛々しくも可愛らしくそれでいて理想を持っていて信念があるという、以外に複雑でなかなか見られない、深みと魅力のあるヒロインとして描かれています。
さて内容について、ですが。これは簡単に纏めてしまえば「理想を追いたいお姫様と未熟ながら強くなれる素養を持つ騎士の邂逅の物語」でしょうか。理想を追おうとして周囲の反対にあったお姫様が、周囲に反発してまで我を貫こうとして逆に失墜し、落ち延び潜伏していた先で前途有望な黄金の卵と言うべき騎士と出会い、彼の騎士と交流を深めていく。だがお姫様は追われる身であり、追っ手である悪の騎士は虎視眈々とお姫様を狙っていた。そしてついにお姫様が絶体絶命のピンチに陥ったとき、未熟な騎士はお姫様にその剣を捧げることを誓い悪の騎士との対決に向かうが、その結末は如何に―――? こんな感じですか。そんな訳でこの作品はストーリー展開としてはボーイ・ミーツ・ガールから始まる主人公の成長劇を中心にした作品です。
総じてこの作品は、生徒会副会長で高嶺の花である「黒雪姫」や幼馴染の女友達・千百合との、若者らしいラブ話もあり、対戦ゲーム「ブレイン・バースト」を舞台にした血湧き肉踊るようなアクションもあり、また正体を隠して忍び寄る敵が誰なのかを探ったりするサスペンス・スリルありと、その時々に楽しめる内容は二転三転しながらもそれらのメリハリが良く効いていて読み飽きない、大賞に選ばれたことに純粋に納得できる作品でした。