学校の階段9

学校の階段9 (ファミ通文庫)

学校の階段9 (ファミ通文庫)

学校の階段

著者・櫂末高彰先生。挿絵・甘福あまね先生による、ちょっと特異な部活動に青春と情熱を掛けることを選んだ学生たちが送る日々を書いた、学園青春グラフィティ作品の第8段です。
・登場人物
主人公の階段部平部員、生徒会長に当選した通称「缶バッチ」こと神庭幸弘、階段部部長で超ワガママッ子な「静かなる弾丸」の二つ名を持つ九重ゆうこ、階段部副部長で二つ名「必殺Vターン」を持ち部長・九重ゆうこのお目付け役の刈谷健吾、階段部メンバーに「黒翼の天使」天ヶ崎泉、「天才ラインメーカー」三枝宗司、幸弘と同じ1年で親友の「月光ダンシングステップ」井筒研。これら階段部メンバーに加えて幸弘の従姉妹四姉妹や天栗浜高校関係者は生徒会副会長となった御神楽あやめ、クラスメートの三島真琴、三枝のクラスメートの見城遥など。山上桔梗院の生徒は今巻は波佐間勝一。浅沢。などが登場します。
・シナリオ
年が明けて一月。階段部では三年生の九重と刈谷の引退を控え、次期部長を選ぶ部員総当りの階段レースが行われることになった。天ヶ崎と三枝は己の理想を追い求めるために、井筒は最高のシチュエーションで九重に想いを伝えるために、そして幸宏は自分の強さを確かめるために—。皆、それぞれの想いを胸に練習に没頭していく。はたして次期部長の座を勝ち取るのは誰なのか!?駆け上がれ、さすれば与えられん。暴走する青春グラフィティ第9弾。
・感想
この巻は、前巻で決着がついた山上桔梗学院との戦いを経て、新しい物語が始まる巻です。現階段部最年長―――階段部創設者である現部長の九重ゆうこ、副部長の刈谷健吾の2人がもうじき卒業と言う事で新しい階段部部長を決めると言う話になり―――そして、様々な事に決着がついたり、逆に最後の為の前哨戦のようなものが始まったり、神庭にちょっとした異変―――変化が起きたりと、ラストに向かって進みだした巻、という印象でしたね。
この巻では主に『新部長決定戦』が描かれています。現部長である九重ゆうこが卒業した後、誰が階段部を率いていく部長となるのか―――それを決める為に話し合った結果、最も実力がある者が新部長という話になり、主人公である「缶バッチ」こと生徒会長の神庭幸弘と、「黒翼の天使」天ヶ崎泉、「天才ラインメーカー」三枝宗司、「月光ダンシングステップ」井筒研、この4名が総当り戦を始めます。その新部長決定戦の間の、各人の決戦に向けての取り組みや、新部長になってからどうしたいのか、階段部をどうしていくつもりなのか、自分で納得の行くケジメを出すには、自分をもう一度見直すとは、といったそれぞれの『新部長決定戦に向けて』という物語が4人分、丁寧に書かれていました。今巻では特にクローズアップされている、というほどの集中的な誰かの物語、というものは無く、天ヶ崎いずみ、三枝宗司、井筒研、神庭幸弘の卒業を迎えた後で階段部に残る4人全員をピックアップして、平等にそれぞれの今後の姿勢を見せる、といった流れでした。
ただ、今巻では作品が2つのパートに分かれていましたね。
前半部分は地の文や幸弘の視点や感情を読みながら、新部長決定戦に向かって進んでいく『神庭幸弘の物語』部分。そして後半は新部長決定戦が始まり、1対1のレースが始まった辺りからスタートする『井筒研の物語』です。レース自体はこれまでの神庭の視点ではなく、井筒の視点や感想を主体に物語が―――レースが進んでいきます。この部分は結構新鮮でした。これまで神庭の視点による逆転劇的なレースが多かったですが、この話では井筒が主体となり、彼が目的に向かって我武者羅に頑張る姿が見られます。1対1と言うレースが始まるや否や、神庭が他の3人を驚愕させる技を披露すれば、井筒も「月光ダンシングステップ」を活用して三枝を唸らせる走りを見せたり、着地時に邪魔をされるとペースが落ちると言う弱点を持っていたいずみはそれを克服するどころか新しい技で下り階段以外でも侮れなくなったり、データに元付く走りは常に最適で最短なコースを走れるところを三枝が見せたりと、レースそのものという面でもかなり見応えがありました。
その一方で、神庭が新部長決定戦では無いさらに先―――別の目標に向かって無謀とも言えるトライを繰り返す姿が狂気染みた凄惨さを見せながらも止めずに進ませてやりたいと思うような、神庭が到達する先を見たくなるような、やりきれない衝動とでも言うのでしょうか、そういった物の発露を見ているような感じで印象深かったです。そしてそれを上回る実力と底の見えない無気味さを感じさせる刈谷。神庭と刈谷の間の共通の認識の為のレース―――『決闘』も近そうで、今後の巻は益々目が離せませんね!
そして忘れてはいけない学校の階段の最大のお遊び部分―――筋肉研究会に関して。ここは、今巻はやや薄めでしたがその分、これまで筋肉研究会に関わった事の無い人との絡みなどが見られました。筋肉研究会会長が御神楽あやめに筋肉話をしようとしてあっさりとかわされたりなどして、筋肉研究会が出てくるだけで面白い展開になっていましたね。
これは正しく、―――ビバ!青春グラフィティ!!と読み終えた時に感じずにはいられない、十代の青春時代の、行き場の無い情熱や熱い感情を描いた『熱血』作品だったと思いました。
「――――――私の通っていた学校にもこんな部活があったなら、参加してみたかった…」読後にそう思うような、若々しさにあふれた作品でした。