神曲奏界ポリフォニカ 黒9

神曲奏界ポリフォニカ アイソレーション・ブラック

著者・大迫純一先生。挿絵・BUNBUN先生。シェアード・ワールド神曲奏界ポリフォニカ』の『ブラック』と呼ばれるシリーズ作品です。大迫先生は他著作に同レーベルから『ゾアハンター』シリーズ、HJ文庫から『鉄人サザン』シリーズなど出されていますね。
・登場人物
精霊警官で警部補の巨漢の大男、マティアの契約精霊である通称マナガことマナガリアスティノークル・ラグ・エデュライケリアス。マナガと契約している楽士警官であるマナガよりも階級は上の警部のマチヤ・マティア。
サブキャラクターは、マナガとマティアに父の冤罪を晴らしてもらった事から知り合いとなり、同じアパートで暮らすようになった現在はトルバス神曲学院に通う神曲楽士の卵であるサジ・シェリカ。マナガ、マティア、シェリカの3人が住むアパートの大家、カリナ・ウィン・チトクティルサ。マナガたちの同僚、イデ・ティグレア検死官。精霊警官の私服刑事、シャドアニ・イーツ・アイロゥ巡査部長。クスノメ・マニエティカ巡査。
今巻で事件に関わる他のキャラクターは、大会社であるオミテックの社長、他のポリフォニカ作品にも登場した事のあるオミ・テディゴット。以前の事件でマナガ、マティアと知り合った口数の多い感激屋、広報担当のオミテック社員カワツ・フログジャンプ。オミテック社の社員、被害者のツガ・ラジウェーナ。オミテック社員のカナド・ディラント。スドウ・ネアリーネ。キドネ・タイナック。検死をしたホテルの医師ヒュウゴ・コンスタンティン。他、ホテルのテーブル係などのホテル関係者が多数、登場します。
・シナリオ
絶海の孤島にそびえたつ巨大リゾートホテル。きらめく太陽と蒼い海。マナガこそいないものの、オミテック社のパーティに招かれたシェリカとマティアは、そんな夢のような休暇を満喫できるはずだった。そう、ツガ・ラジウェーナが絶命する、その瞬間までは。事故なのか事件なのかもわからない状況で捜査に着手するマティア。もし事件ならパーティの最中、何人もの客が見守るなか、犯人はどうやって彼女だけに毒を飲ませることができたのか?解決の糸口がつかめぬまま、迫り来る台風がホテルを外界から完全に隔絶してしまう…!黒のポリフォニカ、衝撃の第9弾。(7&YHPより抜粋。)
・感想
今巻はこれまでの黒シリーズとは少し毛色の違う作品です。というのも、これまで楽士警官コンビという事でマナガとマティアの2人で事件を解決していたのが、この巻ではマティア1人での活動、という形になっているからです。舞台は南海の島、リゾートアイランドのホテル。シェリカの好意でオミテック社の慰安旅行に同行させてもらったマティア。そこで起きる毒殺事件を、刑事の仕事で都合がつかなかったマナガを仕方なく置いて来たマティアが1人で解決する―――そんな話になっています。
この巻はこれまでとは色々な部分でやはり違いを感じます。まず、マティア1人ということで、事件の捜査に関してもこれまでのやり方―――マナガとマティアが2人で意見を出し合いながら、見落としていた点、盲点だった点を互いに探って行くやり方ではなく、マナガの役目をシェリカがやるも違和感を覚える部分を見つけるのはマティア1人の役目―――という感じで、シェリカの支援を受けながら1人でマティアが捜査をしていくという形になっています。普段の様子もマナガとマティアの阿吽の呼吸でのやり取り、というのは今回は少しだけで、シェリカとの年相応の子供らしいやり取りをするマティアの姿が多く書かれていました。と思えば、シェリカとマティアが2人でイブニングドレスで着飾り、『大人』であるカワツ・フログジャンプも驚かせ感嘆させる艶姿を見せたりして、子供の姿と大人の姿、両方を見せている姿でした。
事件に関していえば、今巻もマティアには犯人が誰か早々にわかるも、その動機や犯行の方法などを探すなど『古畑任三郎』的な犯人を追い込んでいくような緊張感が堪りませんね。しかしこれまでの事件とは違い、犯人を追い詰める段階でもマナガが不在の為にマティアが思わぬ反撃を受けるなど普段とは違う緊張がありました。
総じて今巻は、これまでの『マナガとマティアの作品』では無く、マティア1人に焦点を絞りながら他の登場人物にも触れるという『マティア個人の話』という感じに仕上がっていました。マナガから離れ、シェリカはいるも警官としては1人で事件を追うマティア。マナガの存在の有り難さを感じながらも事件を追うマティアという、マティアの成長の話―――そんな感じを覚えましたね。