火の国、風の国物語4

火の国、風の国物語4 暗中飛躍

著者・師走トオル先生。挿絵・光崎瑠衣先生。師走トオル先生は富士見ミステリー文庫で口先弁護士による痛快裁判小説「タクティカル・ジャッジメント」シリーズを書かれています。
・登場人物
主人公は両手に騎士剣を持って戦う豪腕の双剣騎士、近衛騎士であることを示す赤い鎧と貴族である事を示す赤いマントを同時に身につける建国の英雄初代ファノヴァールから数えて4代目のファノヴァール家当主、アレス・ファノヴァール。何者かに仕える使い魔の如き謎の存在で、アレスに取り憑いて事有るごとに怪しげだが的確な助言を与える、アレス以外にはその目に映らない少女の姿をした魔性、パンドラ。
サブキャラクターは、過去にアレスにより暗殺されるところを救われ以後はアレスの主君として存在している、物語の舞台となるベールセール王国の13歳の王女クラウディア。アレスの義妹で傷を癒す白魔術が使えるアレスに従う従軍神官のエレナ。アレスの従者で怪力を持つドワーフ族のガルムス。伊達男の近衛騎士でアレスの力量に目をつけ、アレスの副官に納まったローラン。クラウディアの侍従シオーネ。アレスの愛馬オルトス。アレスの剣の師匠で黒魔術師でもあるイザーレ。アレスの故郷であるレストニア領のアレスの屋敷で侍女として登場するミレイユ。ガザーブ伯爵の息子で一時期ベールセール解放軍にいたが、キホルテ平原での戦いで負傷し、以後の戦いでは負傷者を収容して敵味方の区別無く治療していた王国軍でエレナの治療を受けていたレオン。
風の国」側の面々はベールセール解放軍を名乗る一団の指導者で<オーセルの賢者>と呼ばれる男、ジェレイド。<風の戦乙女>の通称を持つ強大な風の黒魔術の使い手の少女ミーア。ジェレイドと同郷の猟師で弓の腕には高い評価があるマシュー。ミーアの幼馴染兼護衛役のルーク。ジェレイドの養女で白魔術が使えるソフィア。ソフィアを大事に思う少年のクライス。
そしてこの巻では、人を動かす才能を持っていたために解放軍の将の1人となった、ジェレイドの配下として行動するカークウッド千人長。アレスの存在が国のためには良くないのではと考える内務卿のカルレーン侯と、その配下であらゆる暗殺術に長けた年齢不詳の美女工作員、ベアトリス。王でさえ手を出せないとされている貴族連盟の盟主デルヴィレン侯と、その息子でアレスとの間に過去にちょっとした軋轢を抱えるフィリップ。
他にも色々と、登場人物がさらに増えています。
・シナリオ
「どうした、我が契約者よ。今ひとつ顔色が優れぬようだが」胸騒ぎを覚えたアレスの気持ちを見透かすようなパンドラの言葉。夜空には凶兆の証とされる、五望星の中央が血に染まったような赤き星が見えた—。そして、その凶兆はアレス暗殺という命を受けた王都、解放軍からの刺客によって現実のものに…。解放軍の知将ジェレイドが派兵する軍勢、そして王都からの暗殺者。策謀と武力が交錯し、レストニア領に帰還したアレスに息つく暇もなく襲いかかる。英雄は歴史の舞台からその姿を消すことになってしまうのか…。それとも自らの運命に打ち勝ち、真の英雄となることができるのか!蠢く闇の力がアレスに牙を剥く。(7&YHPより抜粋。)
・感想
第4巻は再びアレスが中心となる話の巻。
この巻では、キホルテ平原での戦いを経て功を為したアレスがあちらこちらの勢力から疎まれ、命を狙われます。それをアレスがどう打ち破っていくか―――そんな話になっています。所謂「アレス、有名税を払う。」みたいなものですかね。
第3巻で活躍が無かった分まで纏めて見せるかのように、今巻でもアレスがその超人振りを発揮して見せてくれます。町中での荒くれ者数人による襲撃から、人質作戦、油断を誘って後ろから襲撃作戦、毒作戦、1人に対して軍勢で攻める作戦など、およそ『暗殺』的な考えから来るアレスへの襲撃がこの巻では次々と行われます。が、アレスはその全てを返り討ちにし、或いは防いでしまいます。背後から飛来する矢を素手でつかみ取るとか、馬上槍を片手で操って見せるとか、もはや人の域を越えていますね。流石はパンドラの加護を持つ者…と、アレスの主人公補正の高さに呆れを通り越して苦笑いしか出てこなくなります。ある意味、無茶や馬鹿な描写もそれを遠慮や躊躇無く突き抜けて表現すればひとつの芸術、ということでしょう。
アレスの活躍ばかりが光る今巻ですが、その輝きに紛れるようにして他にも色々と面白そうな展開が進められていました。暗殺者ベアトリスにアレスが思わぬ感情を向けられたり、レオンがライバル的な立場になるかと思わせておいて別な存在になってアレスの近くにいるようになったり、クラウディアが「内乱を治める良い考えがある」と言って行動をし始めたり、「後の巻で間違い無くこいつは情けない最後を迎える!」と思えてしまうようなフィリップの情けない内面が見られたりと、サブキャラクターたちにも見所があります。特に今巻で目立っていたのは、アレスの副官を自認するローランでしょうか。アレスの代わりに毒作戦の犠牲になり辛うじて一命を取り留める、という経験をしながらもそのキャラクターが変わっていません。その理由はローランが一応は大貴族の一族であり、そういったことに対しても「ありえる話」として受け入れているのだと思え、ローランという男の存在を「ただのお調子者」ではなくて「世知辛い世間を知っているからこそお調子者として振舞っている男なのだ」と感じさせる出来事でした。その上でまだ軽い調子で振舞い、アレスの無理にしか聞こえない話にも「仕方ねぇなぁ」的に付き合うのですから、私の中ではローラン株が上昇中、ですね。
総じて今巻はアレスが命を狙われるという話でしたが、その全てをアレスが跳ね除ける、というアレス超人伝説の新たな1ページを綴る話でもあったと思います。この第4巻はこれまでの巻に比べてもアレスの超人ぶり、異様なまでの強さ、というものの描写が濃く描かれており、そんな主人公が圧倒的な強さで何かをする〜という話が好きな人には堪らない巻ではないでしょうかね。