疾走れ、撃て!

疾走(はし)れ、撃て! (MF文庫J)

疾走(はし)れ、撃て! (MF文庫J)

疾走れ、撃て!

著者・神野オキナ先生。挿絵・refeia先生。神野先生は同レーベルで人気シリーズ「あそびにいくヨ!」シリーズを書かれていて、デビュー作はファミ通文庫の「闇色の戦天使」。近作では「ぷりんせす・そーど!」シリーズなどが記憶に新しい精力的に活動されている作家先生の1人ですね。refeia先生は名前が違いますが、同レーベルで「モノケロスの魔杖は穿つ」シリーズの挿絵を描かれていた人です。
・登場人物
主人公は中学を卒業したばかりのやや鈍感少年、田神理宇。ヒロインは銀髪幼児体型な無口キャラ魔導士官少佐、紫神虎紅。もう1人のヒロインは金髪碧眼巨乳な眼鏡少女だけどがらっぱちな口調で話す理宇の同期生で中学時代の友人でもある、華社ミヅキ。
サブキャラクターは、ミヅキの友人で同期生、鳥越深冬。理宇の中学時代の同級生で寡黙な少年の佐武俊太郎。虎紅の使い魔である子犬の姿をしたジンジュウロウ。同期生で理宇、ミヅキたちと同じ隊に配属になるが初めは理宇を敵視している優等生の五巳鷹乃。
さらにサブのキャラクターとして、理宇やミヅキたちをシゴいた訓練期間の監督役、伊達教官。虎紅の同期生で同じ魔導仕官の内藤時雨。時雨の『杖』である台下柳太郎。他にも同じ隊のメンバーや同期生などが色々と登場しますが、ざっといってこんな所でしょうか。
・シナリオ
中学を卒業した田神理宇。これから夢も希望もいっぱいの日々が待ち受けている、なんてことはなく、学生兵士、通称「学兵」となるべく、訓練の日々が待ち受けていた。辛い辛い訓練期間も終わり、自分の配属先に思いを馳せる理宇は、指導教官に呼び出しを受ける。ドキドキしながら向かった理宇がその場で受けた指令は……「護衛士官」への任命。それも魔導士官直々の「要望」で! なぜ自分がと疑問に思う理宇を待ち受けていたのは、服装もアンバランスなとても可愛らしい――少女!? 「あそびにいくヨ!」の神野オキナが贈る、新感覚アクションラブコメ、開幕!!(MF文庫JOHPより抜粋。)
・感想
作品としてはかなりのドシリアスです。約4メートルほどの人型生物―――謎の敵、通称「ダイダラ」に侵略されている世界。その世界で主人公である田神理宇が、学生兵士として戦場に出られる技量を身につける義務の為、軍の訓練所に入る所からのスタートです。当初はその訓練学校での厳しい訓練の内容とそれを理宇が受けている様子を描写し、合間合間に他の登場人物達―――虎紅やミヅキ、他の同期生や教官の話、などの描写が入るという『主人公/他の登場人物』という2つの情景描写の繰り返しで進んでいきますね。その中で、虎紅が理宇を気にしているシーンが入ったりするのですが、この巻ではまだどうして虎紅が理宇を気にするのかということは語られていませんでした。今後の続刊にご期待ください、ということでしょうね。
前半はそういった形で、理宇の描写とその他の人物の描写で話が進みますが、後半、ついに虎紅や理宇、ミヅキたち『紫神小隊』が前線に立つところから一気にスピード感と緊張感、それと情報密度が跳ね上がりますね。奇襲を受けた本隊が下がる殿を務め、起死回生の戦術「魔法陣」の発動までの時間稼ぎの為に、紫神小隊は押し寄せる多数のダイダラを相手に戦線を維持する事になります。地獄のように押し寄せるダイダラたち。弾幕を張ったりしながら戦線を維持している間に弾薬が次々と目減りしていく中、理宇や虎紅、ミヅキたち紫神小隊は、生還できるのか―――といった感じになります。
作品としての分類はファンタジー+現代戦争もの、ということになるのでしょうか。魔導士官という、ファンタジーの代表である『魔法』が使える人が使い魔を従えて軍属として存在してたりする一方で、パワードスーツっぽい近未来的装備を理宇が着たり、タイヤが1つのモノライドという一輪車みたいなバイクが出たりしています。しかし魔法も万能ではなく、近未来的装備はダイダラにはあまり高い効果が無くと、設定の上でのバランスは良く取られている作品でした。
総じてこの作品は、状況描写などが多く文字通りの「ライトノベル」が好きな人にはやや敷居が高いかもしれません。しかしその敷居を越えて作品世界に馴染めるなら、無口だけど可愛らしいヒロインとがらっぱちに見えて女の子らしいヒロインの2人にそれとなく迫られながら鈍感ゆえに気づかないという主人公を見るラブコメと、緊張感と死の臭いが溢れる戦場という舞台で、ダイダラという巨大な敵を前にして戦わなければならない学生兵士たちの命の輝く姿を同時に見られる、アクション性も高いとても読み応えのある作品を楽しめるでしょう。