神曲奏界ポリフォニカ レオン・ザ・レザレクター2

神曲奏界ポリフォニカ レオン・ザ・レザレクター2

著者・大迫純一先生。挿絵・忍青龍先生による通称『黒ポリ』と呼ばれる神曲奏界ポリフォニカBLACKシリーズでサブキャラクターとして登場した人物を主役に据えて送られるハードボイルドなスピンオフ小説の第2段です。
・登場人物
主人公に精霊探偵を名乗るフェニミストな上級精霊レオンガーラ・ジェス・ボルウォーダン。レオンの知人で友人で娘の如く面倒を見てきた女でもあるロレッタ。精霊でレオンを敵視しながらも何だかんだで一緒にいる猫の姿のセヴニエーラ。
この巻で登場の重要人物としては、レオンが事件に関わるきっかけを作るイシカ・アンナフェリナことアニィ。雇われの中級精霊で巨漢の男、グロン・ドルク・ガルガンダス。精霊で医師であるアニィの契約精霊、シュレイム・フォロ・トレイアル。精霊の殺し屋、ロザム・ヴォダ・ゴードック。そして全ての始まり、シザネ・マウディエロ。マウディエロの娘で臓器不全のシザネ・アニストル。
サブキャラクターにはブラック・シリーズでも登場する検死官のイデ・ティグレア、婦警のクスノメ・マニエティカ。ざっとこんなところですね。
・シナリオ
俺とアニィが初めて出逢ったのはマルト川の川底だ。水没した車の中ってシチュエーションは穏やかじゃねぇが、そんなこた関係ねぇ。アニィはまさに水もしたたるいい女だった。だから気を許したってわけでもねぇが、まさか俺のギャリエイ・モデル75を乗り逃げされるなんてな。ヤキがまわったもんだぜ。だがその娘が屍体になって見つかったってんなら話は別だ。アニィから最後に託された銀色のカギ。そして水没した車のクーラー・ボックスに入っていたのは…少女の“心臓”だった。しかもそれは、精霊の力によって造られた精巧なレプリカときた。いったいどうなってやがる—。(7&YHPより抜粋。)
・感想
本作はシェアード・ワールド・シリーズ、『神曲奏界ポリフォニカ』の通称ブラック・シリーズと呼ばれる、少女楽士と巨漢精霊がコンビになって事件を解決していく作品の登場人物であった精霊探偵のレンガーラが、単独で主人公として活躍するスピンオフ作品、です。
偶然出会った女を助けたレオン。しかしレオンからも逃走していった女は後日、死体となって発見される。女の名はアニィ。レオンが彼女から最後に預けられていた鍵を巡り、何人もの刺客が来る。果たして鍵は何の鍵なのか。レオンは何に巻き込まれたのか―――そんな感じで、事件の発端が何処にあるのかは見えるのですがその全容がわからないまま、物語は進んでいきます。全容がわからないのはレオンも読者側も同じで、物語が進むに連れて少しづつ明らかになっていく真相が読んでいてドキドキ感を湧き上がらせてくれます。
事件の真相は読んでのお楽しみ、というところですが、子を思う親の気持ちの暴走が重要、という何処の家庭でも起き得る事象が原因ですのでその辺り、『精霊』が関わっているからこそ起きたとは言え、この『精霊』の部分を『科学』に置き換えてみれば現実でも起こりえる事件とも感じられ、微妙な現実感がこの作品のハードボイルドな感覚を増させていますね。
今巻でも、フェニミストなレオンガーラの、彼らしい最後の締め括りは1つの事件の終息を如実に感じさせてくれました。同時に、この事件がただ親が子の愛し方を間違ったに過ぎない事件であり、物悲しい結末でしんみりして、事件の関係者達の冥福を祈らずにはいられない読了感を感じました。
『女の子は、綺麗に磨いて、お花で飾って、清潔なシーツの上で愛でるものだ。だが小さな女の子が眠る時には、それだけじゃいけない。』このくだりは、まさにこの事件の物悲しさを強烈に感じさせる名文だと思いましたね―――。