ベン・トー

ベン・トー 1 サバの味噌煮290円 (スーパーダッシュ文庫)

ベン・トー 1 サバの味噌煮290円 (スーパーダッシュ文庫)

ベン・トー サバの味噌煮290円

著者・アサウラ先生。挿絵・紫乃櫂人先生。アサウラ先生はスーパーダッシュ文庫レーベルで「黄色い花の紅」「バニラ」などの作品を出されています。今回の作品は庶民派シリアス学園ギャグ・アクション小説だそうです。
・登場人物
主人公、半額弁当を求めたが為にそれまで知らなかった”狼”たちの最中に飛び込む事になる佐藤洋。”氷結の魔女”の異名を持つHP同好会の会長で歴戦の勇士、槍水仙。偶然洋と同じ時に半額弁当を求め、彼と同じくして”狼”たちの存在を知り自身の趣味もあり”狼”たちの世界に関わっていく事を選択した隠れオタク少女、白粉花。花の親友で彼女の事を色々とやばいくらいに溺愛している委員長で生徒会長候補、白梅梅。”魔術師”の異名を持つ”狼”で前HP同好会会長、金城優。『ダンドーと猟犬群』と呼ばれる一群のリーダー格で剣道部主将の山原。超ドMで、洋が白梅梅に狙われた時に身代わりにされて過剰なまでに色々とされてしまっても喜ぶ、真性の内本宏明。半額印象を張り”狼”たちに戦いの鐘を告げる者の一人である、通称アブラ神。アブラ神同様の”狼”たちに戦いの鐘を告げる者の1人であり、アブラ神とは別の店で働くジジ様。”狼”の1匹で、洋曰く「大変よい乳をした」茶髪の女子高生。”狼”の1匹で、誇りを持って半額弁当争奪に挑むナイスガイの顎鬚。他、巨漢のおばちゃん”大猪”とかラグビー部集団”アラシ”など、素敵な名前が多数です。
・シナリオ
ビンボー高校生・佐藤洋はある日ふらりと入ったスーパーで、半額になった弁当を見つける。それに手を伸ばした瞬間、彼は嵐のような「何か」に巻き込まれ、気づいた時には床に倒れていた。そこは半額弁当をめぐり熾烈なバトルロワイヤルが繰り広げられる戦場だったのだ!その不可思議な戦いに魅せられた佐藤は、そこに居合わせていた同級生・白粉花とともに半額弁当の奪取を試みるが、突如現れた美女、「氷結の魔女」に完膚なきまでに叩きのめされる。そして、その美女が佐藤に告げた言葉は…。第5回大賞作家の新境地、庶民派学園シリアス・ギャグアクション、開幕。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は真面目に不真面目な事を真剣に熱意と誇りと覚悟を持って挑む者達の、ロマン溢れる馬鹿騒ぎを真面目に時々おどけながら書いている、そんな作品ですね。こう書くと何がなにやら、という感じですが、もうそうとしか言い様が無い、とでも言いましょうか。兎に角、全編に渡って主人公、佐藤洋の視点を中心にして凄まじく馬鹿馬鹿しい事に情熱を燃やし、誇りを持ち、日々挑む者達の姿が語られ、やがて洋がそれに自らも参加していく様子が書かれているのです。
この作品は登場する人物達が皆それぞれ、何かしらに情熱を燃やし誇りを持っているのが特徴的ですね。終始登場人物たちが如何に何に情熱を燃やしているのか、それがひたすらに訴えられる作品でした。主人公の佐藤洋と、ヒロインのひとり白粉花は、そんな情熱を持つ者たちに巻き込まれるようにして自分達も情熱を持って行く―――そんな顛末が書かれています。主人公とヒロインは前述の通りそういった『情熱』『誇り』そういったものを知っていく、という形ですので当初は普通の人でしたが、序盤の彼らと終盤の彼らとを見比べると、確実に『何か』を知ったな、と見えて作品の中での主人公達の成長がわかり、そんな点も面白いですね。他の登場人物達も、”狼”たちは全員それぞれが求めるもの―――半額弁当―――のために誇りを持って戦いに挑んでおり、その姿勢、心の有り様は今の日本人が無くしている『人が見たら馬鹿馬鹿しい事でも、それでも何か1つの為に必死になる』ということを思い出させてくれるでしょう。
作品の雰囲気は庶民派シリアス学園ギャグ・アクションと題打つだけあり、一部では酷くシリアスで、1つの事に対する人物の姿勢など色々と見てるだけ、会話を聞いているだけでも勉強にさえなるようなところもある反面、兎に角勢いで書いていて地の文による洋のギャグ調の過去語りが長々と続いて話が逸れたり、学園を舞台に洋がトンデモ奇行をしたりしてやはり話そのものが逸れていたりする印象を覚えるなど(逸れた話はそれはそれで面白いのですが)があります。が、終始一貫していたのはやはり『馬鹿な事に情熱と誇りを賭ける』者たちの熱意が、決意がどこからも伝わってくるということでしょうか。
登場人物全てが何かしら心に秘めたものを持つこの作品。人が何かを為そうとする時に発揮できる力の強さを見せてくれる作品でしたね。