神無き世界の英雄伝

神無き世界の英雄伝 (電撃文庫)

神無き世界の英雄伝 (電撃文庫)

神無き世界の英雄伝

著者・鴨志田一先生。挿絵・坂本みねぢ先生。電子の妖精と艦長が指揮する艦隊―――宇宙戦艦同士が、広大な銀河を舞台にぶつかりあうスペースオペラ作品です。
・登場人物
主人公、元コックでオフィーリアに選ばれて旗艦ダインスレイフ艦長に就任し一艦隊の提督となるレン・エバンス。旗艦ダインスレイフの電子妖精でレンを”主”に選んだオフィーリア。巨大企業クローバーの一員で、士官学校主席卒業で成績優秀だが冷徹な合理主義者でもある旗艦アロンダイトの艦長ロイ・クローバー。ロイを”主”として選んだ旗艦アロンダイトの電子妖精、コーデリア。ロイの妹でオフィーリアに選ばれるだろうと言われていたが、レンの登場でその運命が変わりその後はダインスレイフに就役した、戦闘参謀のネリー・クローバー。敵役として登場は、敵国の英雄で戦術に関して無敗を誇り、友軍から絶大な信頼を向けられる中将クラウディオ・アレティーノ。そのクラウディオが乗る旗艦グングニルの電子妖精のロザリンド。
そのほかにも一介の軍人や、それぞれの艦の乗員達が色々と登場しますね。名前の有る無し問わずに多くの登場人物があります。
・シナリオ
純粋に対象の能力を見極めて“主”を選ぶ電子妖精。驚異的な演算処理能力によって戦闘をコントロールする彼女たちが選んだ人間が、そのまま階級にかかわらず提督として艦隊を率いることになる。今回、コーデリアとオフィーリアという2体の電子妖精が式典で選んだのは能力と家柄を誰もが認める巨大複合企業の御曹司ロイ・クローバーと、そして式典で給仕をしていたコックのレン・エバンスだった。2人が提督に選ばれた直後、ミレニアムとクローバーを中心とする民間企業が連合組織『企業連盟』の樹立を宣言。企業連盟は人民共和国に対して独立戦争を挑む…!正統派スペースオペラ登場。(7&YHPより抜粋。)
・感想
宇宙を舞台にした宇宙戦艦と宇宙戦艦の艦隊戦の対決がメインで、その中で登場人物たちの内面が書かれたりしています。
主人公であるレン・エバンスが(主人公と言っても登場人物が多いので影は薄いですが)元コックからオフィーリアに選ばれて提督として大抜擢という展開から入りますので、基本として、そんな突然登場したレン・エバンスに反意や疑念を感じる部下達が多く書かれています。それはもう一人の主人公とも言えるロイ・クローバーも同じで、年若く大企業クローバーの関係者ということで色眼鏡で当初は見られています。そんな似たような境遇―――ただ電子妖精に選ばれただけ、ただクローバーの関係者―――にある2人が、それぞれのやり方で周囲に認められていくのがこの第1巻での大まかな展開でしょうか。危機的状況で正面から敵を撃破して信頼を得るロイ。やや奇策ながらもあくまでこちらも正当な艦隊運用を見せ、ロイですら唸る状況で見事に役目を果たして見せるレン。そうやって、それぞれの立場をそれぞれのやり方で認めさせていくその対比が面白かったですね。
また、それらを互いに見あっての主人公2人の内心での衝撃なども、見ていて興味を惹かれますね。何故かロイに隠しながらも敵愾心を見せるレン。レンのあり方、その視線の強さなどに知らず興味を引かれていくロイ。そんな2人の心の動き。それが互いに相手が何かしら戦功を立てたり作戦をやってのけた時に、相手を見るたび浮き彫りに書かれていて互いが互いを意識しているのがはっきりわかり、今後のこの2人の関係にどのような波紋を浮かべるのか気になる書き方で、読者側がそういった登場人物たちの内面に薄く触れていくような描写が面白かったです。
また敵側にも歴史あり、というか。敵役として登場し今巻で退陣となる英雄クラウディオ・アレティーノとその電子妖精ロザリンド。この2人に関しては短い描写ながら長年連れ添った老夫婦の様な互いの事を互いに理解しあい信頼しあっている様子は、その最後に華となって添えられていてこの巻のみの登場が惜しい気がしました。
しかしながらやはり作品としては、スケールの大きなスペースオペラということで、シミュレーション・ゲームのMAPを言葉で説明するような地の文などが多いので、読むのには理解力と想像力が多目に必要かな、と思いましたね。