藤堂家はカミガカリ

藤堂家はカミガカリ (電撃文庫)

藤堂家はカミガカリ (電撃文庫)

藤堂家はカミガカリ

著者・高遠豹介先生。挿絵・油谷秀和先生。第14回電撃小説大賞”銀賞”受賞作品です。
・登場人物
メインの主人公は2人で、神一郎たちが住むハテシナで3年前に失われた筈の三大武具の1つ、『クサナギ』を持つ建代神一郎と、デッキブラシを武器に使う天霧美琴。そんな2人の護衛対象であるが何故護衛対象になっているのかは不明な藤堂周慈。周慈の双子の姉で、3年前に事故で下半身付随になり車椅子生活をしてる藤堂春菜。
サブキャラクター及び敵としては、北欧勢力と呼ばれるハテシナの一派で、少数精鋭の部隊の一員であり『グングニル』を主より借り受けて使う見た目はランドセルを背負った少女のレッテ。『ミョルニル』と呼ばれる武器を使う北欧一派の1人、デルトール。吸血鬼のハテシナの一派でちょっと知恵に不備があるが結構強力な力は持つエミュレット。そのエミュレットの上司であり弱小一派である吸血鬼のハテシナの一派の代表格のキリドル。3年前、謎の行方不明となり死亡したと言われる元クサナギの持ち主スサノオ。やはり3年前に失踪したツクヨミ。作中でスサノオツクヨミと揃って”三貴士”とかつて呼ばれていた実力者、天野照子。そして神一郎、美琴のサポート役として三本足の烏ことカラ介。
・シナリオ
人間界とは別の世界「ハテシナ」の住人である“ハテビト”建代神一郎と天霧美琴は、ある少年の護衛を任され人間界に降り立つことに。目的の少年である藤堂周慈とその双子の姉、春菜が住む「藤堂家」に押しかけ、強引に住み始める神一郎と美琴。二人は藤堂家で家族のように馴染んでいくが、隙をつかれて少年が襲われてしまう。少年を守るために応戦する彼らの武器は、なんと“鞘から抜けない刀”と“デッキブラシ”という頼りないものだった!?抜群の文章センスと魅力あるキャラクターで描かれるアクション&ほんわかストーリー。第14回電撃小説大賞“銀賞”受賞作。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品はかなり軽快に読んでいける、読みやすい文章の作品でしたね。会話と地の文のバランスがよく、また会話もテンポがよくてほいほいと読んでいける作品でした。また、作中で”ハテシナ”とひと括りにして世界の神話を異世界と言う形で投影して使っているので、日本神話、北欧神話など、また神話に限らず物語などからもモチーフを引っ張ってきて、それを作品に絡む登場人物としていて基礎知識がなくても基本的なイメージがすぐ浮かぶようにしていて、作品の世界観構成にも一役買っていました。それでいて『ヤマタノオロチ』などは一般的な「九頭首の竜」というイメージとは違う『集団名』とするなどした使い方をしていたりもしていて、読者側の一方的な補完にならないようにしてあったりと細かなところで技が光っていますね。
この作品は主人公2人の魅力が高い作品ですね。毒舌で少し一般常識的なところがずれているが家庭的な神一郎。ざっくばらんで大雑把で、良く言えば豪快、悪く言えばだらしないが、実力はあるし明るい性格の美琴。と、両方ともキャラが立っていて、そんなアクの強い凸凹コンビが馬鹿な事を言ったりしながらもキッチリしたコンビネーションを見せたり、互いの心象を慮った行動を取れたりしていて、良いコンビの2人の掛け合いはただ見ているだけで面白い、というものを体現してくれています。難点としては、ついさっき会ったばかりの2人が既に長年コンビを組んでいるような調子の良い掛け合いを見せているところは、若干の違和感を感じなくもなかったです。そこは人それぞれ、でしょうか。
基本的には武器に依存する形の能力バトルものでしたが、バトルの派手さと話の裏にある神一郎と春菜の過去の関係などシリアスな一面とは真逆の、登場人物の戦闘中でも始まるコミカルな掛け合いと日常シーンでのほのぼのさが際立つなど、ただの能力バトルもの、とは言えない見事なバランスのアクションとほのぼのしたシーンの比率は、流石”銀賞”を受賞しているだけあるな、と思いましたね。

個人的にはこの”銀賞”は思い入れがあるのです。何故なら、私が初めて買った電撃文庫は第4回の電撃ゲーム小説大賞と呼ばれていた頃の電撃小説大賞で”銀賞”を受賞した阿智太郎先生の『僕の血を吸わないで』なので、大賞や金賞よりも思い入れ深い賞なのです。ですので今回の作品はそれに値する良い作品であり、そういった意味でもよかったと思います。