タザリア王国物語3 炎虐の皇女

タザリア王国物語3 炎虐の皇女

著者・スズキヒサシ先生。挿絵・あづみ冬留先生。いわゆる架空戦記もので、架空の世界を舞台にとある国の皇子の影武者だった主人公が、運命の悪戯から皇子と入れ替わる事に成功して皇族として生きていく姿を書いた作品ですね。
・登場人物
主人公でジューヌ皇子の影武者だったが、戦場で殺害されたジューヌと入れ替わりそのままタザリアの王となったジグリット。『冬将の騎士』の二つ名を持ち、ジューヌ=ジグリットを知るジグリットの友であり兄であり師でもある騎士ファン・ダルタ。ジューヌ=ジグリットであることを知らないが、かつてジグリットをジューヌの影武者として抜擢した騎士長のグーヴァー。ジグリットとジューヌふたりの教育係だった法相かつ蔵相のマネスラー。ジューヌ=ジグリットであることを疑っているがまだ確証がないので手を出してはいない近衛騎士隊長のフツ。タザリア王国の皇女でジューヌの姉で、ジグリットに対しては嗜虐性を隠す事無く発し彼をいじめ続けていて、現在ジューヌ=ジグリットであることを知っている人物でもある苛烈かつ嗜虐的な性格をしているリネア皇女。父を殺し6人の兄弟を全て暗殺、或いは謀殺して即位したタザリアの隣国ゲルシュタイン帝国の若き皇帝、アリッキーノ1世。
他にタザリア王国に仕える騎士たちや、ジューヌとリネアの母、『道化師』と呼ばれる不気味な予言をする魔道具使いやアリッキーノの妹など、様々な登場人物がいますね。
・シナリオ
ついにタザリア王へと昇りつめたジグリット。だが、行く道は平坦ではなかった。脆弱な少年と見くびった有力貴族達は結集し叛旗を翻す。国力の中枢を担う彼らに対し、圧倒的に不利なジグリット。深い洞察とわずかな光明に賭け、決戦に臨むが!?
一方、タザリアにとって最も危険な男、ゲルシュタイン皇帝アリッキーノは虎視耽々と隣国の情勢を見つめていた。彼は思わぬ布石をうつ。リネアとの婚姻を求めてきたのだ。ジグリットは難色を示すが、意外なことにリネアは…。
この先、タザリアはかつてない激動を迎えることになる。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この巻は2つの出来事で構成されていますね。
前巻のラストで崩御したクレイトス王の後を継ぐ形でタザリア王として即位したジューヌ=ジグリット。その彼が新王として即位する間の出来事(儀式や式典)と、即位した後に起きる貧民層に強く目を向けるジグリットを良しとしない一部の上流貴族の反乱によるタザリア国内での内乱。それと、サブタイトルでもある『炎虐の皇女』ことリネア皇女のゲルシュタイン帝国への輿入れと、それによって起こるタザリア王国へのゲルシュタイン帝国の侵攻。この2つの出来事が、この第三巻で書かれている内容となりますね。
前半部分は、ジグリットがタザリア王となったものがその身に宿す事を義務付けられている希少な魔道具『ニグレット・フランマ』を移植されたり、タザリア王国内部で起こる貴族と平民の軋轢にタザリア王としてジグリットが真摯に取り組むなどで、タザリア王として即位するまでと即位してからの苦労などの様子。それから、反旗を翻した上流貴族の一部を相手にジグリットが国軍を率いて迎え撃つ『タザリア王軍』と、上流貴族の筆頭デザーネ家の若き新党首クストー・デザーネが王国軍から引き抜いた騎士たちに傭兵を交えて率いる『上流貴族軍』との戦いですね。国王となったことで背負う事になった諸問題に頭を抱えながらも真摯に対応しようとするジグリット。しかしそれが引き金になってしまい起こる内乱―――そんな様相です。その内乱が起こるまでの間に書かれる水面下での情報収集戦なども書かれており、全体的に丁寧に事象が積み上げられていった印象がありますね。
後半では、サブタイトルにもなっている炎虐の皇女ことリネア皇女のゲルシュタイン帝国への輿入れが事件の引き金になっていますね。リネアの輿入れにより、ゲルシュタイン帝国のアリッキーノ皇帝が物語に登場し、彼の国の軍事力などを利用してリネアがついにタザリア―――というより、ジューヌ=ジグリットに、久々な虐待行為をかける、といった所です。しかし今回はこれまでとは虐待の規模が違いますね。具体的にはタザリアよりも圧倒的に強力な夫の軍勢を用い、さらにタザリア王国近衛隊から出奔して一介の傭兵としてリネアの元に来たフツを使い、周到に準備を進めてリネアはタザリア王国に急襲をかけ、ジグリット=タザリア王を拉致してしまいます。
素性を偽りタザリア王となったジグリットに、これまでのように虐待行為を加えられず、かといってジューヌ=ジグリットであると知っていて嗜虐性が発散されずに溜まっていった分、今回の行為はまさに溜めに溜めたものを晴らす如く過激に為された、といった感じです。そしてそういった行為を取るその裏にある感情はどう見ても『あれ』であり、歪みに歪んだ上に気性の荒さも手伝って、ヤンデレも目じゃないくらいの病みっぷり、歪みっぷりですね。しかし、彼女はとてつもなく情熱的でもあると思います。ジグリットをジグリットとして手に入れるためならどんな事でもする―――そのスタンスは、彼女と言う人間が目的の為ならどんな事でもし、そして決して我慢しない。良くも悪くも『王族』なのだなぁ、まさに炎の女…炎虐の皇女だな、とか思いました。
そして衝撃のラスト。まさかジグリットの○○が○○○○○てしまうとは…そうするに至るリネアの思考経路からも、リネアの病みっぷりが伺えますしね…。そしてゲルシュタイン帝国で捕虜となり、リネアにまるで動物を飼うかの如く扱われる状態になって、これからジグリットはどうなるのか…!という所で続いています。
前巻登場のアンブロシアーナや貧民時代のジグリットの知人であるナターシなどは、今巻ではその姿は見られませんでした。ジグリットが軽く回想するくらいで。そんな彼女達の今後の登場など、タザリア王国物語、色々とまだまだ気になる展開が多そうですね〜。