モーフィアスの教室

モーフィアスの教室 (電撃文庫)

モーフィアスの教室 (電撃文庫)

モーフィアスの教室

著者・三上延先生。挿絵・椎名優先生。アクションホラーとでも言えばよいのでしょうか?そんな作品ですね。三上延先生の他著作は、電撃文庫レーベルでは『ダーク・バイオレッツ』シリーズ、『シャドウテイカー』シリーズ、『天空のアルカミレス』シリーズ、『山姫アンチメモニクス』シリーズなどがありますね。挿絵の椎名優先生は『月と貴女に花束を』シリーズ、『麒麟は一途に恋をする』シリーズなどで挿絵を描かれていますね。
・登場人物
主人公で最近奇妙な『悪夢』に不眠に悩む高校生の岸杜直人。直人の幼馴染で直人にも話せない秘密/謎がある久世綾乃。直人、綾乃共通の友人のクラス委員の倉野棗。基本メインはこの3人かと思います。
直人の妹の岸杜水穂。他にはクラスメートの牧野、永田、山中、担任教師の駒江先生、などがサブキャラクターですかね。
そして謎の存在『夢神』。直人や綾乃の相手で、作中では『ヨミジ』と名付けられた夢神が出てきます。このヨミジを相手取った事件が、この作品での出来事ですね。
・シナリオ
東京郊外の高校に通う岸杜直人のクラスで、多くの生徒達が見た不思議な夢の“教室”。その夢の中で怪物に喰われた者は、二度と目を覚ますことはない―。
悪夢に囚われた友人達を救うため、直人は傍若無人な幼馴染み・久世綾乃と共に夢の秘密に迫る。
やがて直人は、自分の夢の“教室”にだけ、不思議な扉があることに気が付く。なぜか綾乃は、「その扉を開けてはいけない」と直人に忠告するが…。
現実世界を浸食しはじめた「悪夢」を直人は止められるのか?そして綾乃の知る真実とは―。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は原典回帰的な印象を受けましたね。
一見普通の少年少女が、実は少しだけ普通ではない力を持っていて、その力を知恵を使って行使して立ち回り、圧倒的強者である敵を相手に奮闘する―――。そんな感じの、著者先生のデビュー作である『ダーク・バイオレッツ』のような、非力な主人公達が僅かな力を状況に応じて的確に使いこなしながら戦う印象を受けました。
敵である『夢神』。今巻では『ヨミジ』と名付けられたその敵は夢の中、悪夢の中でのみ活動し、現実に侵蝕しようとしてくる。悪夢で襲われた人は現実でも目を覚まさなくなる。悪夢に取り込まれてしまったら、もうどうにもできない―――。そんな、手に届かないところからひたひたと少しづつ近づいてくる悪意の書き方は、ダーク・バイオレッツシリーズなどの過去著作でも緊張感を高める演出などをしっかり書いていただけあって、この作品でも『抵抗できない脅威』が恐怖感をあおっていましたね。
そして敵を生み出した―――現実に呼び込んだのが人間である、という自虐的な展開。ひたむきな心も、相手にそれを受け止めるだけの覚悟が無ければ悲劇しか生まないという事の証明になってしまった事件。責任転嫁。追い詰められた人間の脆さを目の当たりにするシーンは、前作からそうでしたがこういった人間の負の部分を書く時の三上延先生の文体は、とても丁寧ですね。
そして何も知らない学生でしかなかった直人が、父の跡を継いで『扉の民』となるくだり。「自分で決断しなければ意味が無い」、という綾乃の言葉通り、重要アイテムである『黒い鍵』を手にする前と自分で考えて決断して鍵を手にした後の直人とでは、覚悟が違っていましたね。訳のわからないままに夢神や綾乃に振り回されていた鍵を手にする前と違い、鍵を手にしてからは夢神に振り回されたり綾乃と離れたりしても、『ヨミジ』封印の為に終始、『決意』を持って動いていたので、前と後とで直人の印象が大きく変わっていました。夢神を生んでしまった人と直人とで覚悟の有無、大きさの違いなども対照的に見えていたと感じられました。そういった意味でも、直人の成長譚でもありますかね、この作品は。