ウェスタディアの双星

ウェスタディアの双星―真逆の英雄登場の章 (電撃文庫)

ウェスタディアの双星―真逆の英雄登場の章 (電撃文庫)

ウェスタディアの双星 真逆の英雄登場の章

著者・小河正岳先生。挿絵・津雪先生。スペースオペラ風で、艦隊戦や王宮、帝室を舞台とした場所での登場人物たちの駆け引きなどを楽しめる作品でしょうか。『ウェスタディアの双星』は新シリーズで、作者先生の他の著作としては『お留守バンシー』シリーズが電撃文庫レーベルから出ています。
・登場人物
文官で書記官でしかなかったが、多数の情報を扱う仕事と自身の趣味もあり次第に相手の心理を読むことに長けていき、今巻の騒乱では敵側の心理を読む作戦を立てる参謀長的存在になるアルベルト・アルファーニ。元々は過去の戦乱で大功を挙げて百旗将と呼ばれる将軍職にまで昇進していたが、不遜な上司を殴るなどして一兵卒にまでその身を落としていたレオーネ・バドエル。ウェスタディア王国前王のエドアルド王から『客卿』と呼ばれ、『黒の貴公子』の二つ名を持つやり手の商人で、エドアルド亡き後、ルシリアを擁立してウェスタディア王国を支える外務卿となるカルロ・チェザーリ。元々は修道院に預けられていた王女で、ウェスタディア王国崩壊の危機にカルロに見出されてウェスタディアの新たな女王となるルシリア・ラデュ・ウェスタディア1世。
メインは上記の4人といった感じで、他に敵国のラミアム大公国のレムス王、その臣下のルクレウス、リキウス、ブルタコス等の諸将軍からルシリアの預けられていた修道院の院長や他の修道女たち、バドエルの部下、ウェスタディアを取り巻く星間国家の諸侯など、数多くの人物が登場しますね。
・シナリオ
小国家ウェスタディア王国。今、この国に未曾有の危機が迫っていた。隣国のラミアム大公国の大艦隊が侵攻を始めたのだ。迎え撃つはずの自国艦隊は総指揮官もろとも戦わずして逃亡してしまう。
まだ少年のあどけなさを残す書記官アルファーニは憤っていた。自らの保身に走り国を見捨てた貴族たちを。故郷を捨てることができない彼は決意をする。逃げられないなら戦うしかない!そんな時同じく取り残された境遇の兵士と出会う。かつては指揮官だったが一兵卒に降格されたという不良軍人のバドエルと。
その出会いが、信じられない奇跡の始まりだった。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は宇宙や惑星に存在する国家を舞台に、艦隊戦や首脳クラスの者達の情報戦、あるいは政治的駆け引きといったものが楽しめる作品でしょうか。
小国家ウェスタディア。この国で前王が崩御するところから話は始まります。王の崩御に混乱する国。前王の人徳に集っていただけだった大臣や他の諸侯は次々と国から離れていく。そんな状況が刻一刻と悪くなる中で、王国再建をしようとするカルロと、彼に見出されて新女王となるルシリア。そんな2人が出会い、ルシリアが新女王として見出されるまでが前半部分となっています。そんな前半部分では、カルロとエドアルド前王との会話とカルロが彼にどれだけの恩義を感じているか、エドアルドがどれだけカルロを信頼しているかがメインに書かれていましたね。エドアルド亡き後も超有能な外交能力を持つカルロが自然とウェスタディアに残る事を選択する説得力を書いていた、といった感じです。そしてルシリアの登場。修道院で過ごすルシリアを書いたり王室に入った後のルシリアの『頑張って女王をしようとしている少女』が書かれたりしていて、その可憐さ、守ってあげたくなる姿を見せています。
後半では隣国ラミアム大公国が、崩壊寸前のウェスタディアを併呑すべく攻勢をかけてきます。
その攻勢の中、エドアルド王の死によってウェスタディアに見切りをつけて次々と逃げ出す軍上層部を前にして、アルファーニ、バドエルの両名が自衛の為にも軍を率いて立つ訳です。
後半は宇宙は電磁波嵐の荒れ狂う宙域での艦隊戦が主になります。イメージとしては、『宇宙戦艦ヤマト』の様な戦艦だけの戦い、でしょうか。ガンダムの様なMS的なものは出てきません。同じような作品としてあげれば角川スニーカー文庫の「でたまか」シリーズなどが近いでしょうかね。
敵の心理を読み、相手の行動を予測し、罠を張り、そして地の利を得た者が勝つ。文字にするとそれだけですが、それらを一つ一つ手に納めていくウェスタディア側の動き方は精密且つ精緻で、一つ一つ積み上げていくような展開は勝利に向けて少しずつ歩んでいくような奇妙ながら小気味の良い緊迫感がありますね。
総じてこの作品は二種類の激突が楽しめる作品、でしょうか。
ウェスタディア王国を守ろうとする人と、ウェスタディア王国を滅ぼそうと、食い物にしようとする人たちとの激突。もうひとつはそんなウェスタディア王国を政治的に守る人たちの代わりに戦場で艦隊を率いて戦う人たちと、ウェスタディア王国を滅ぼそうとする人たち側の戦場で艦隊を率いて戦う人たちの激突。情報などを扱う政治的激突と、艦隊戦を主とした軍事的激突。そんな2つが楽しめるかな、と思いましたね。