ロミオの災難

ロミオの災難 (電撃文庫)

ロミオの災難 (電撃文庫)

ロミオの災難

著者・来楽零先生、挿絵・さくや朔日先生による、5人の男女の恋模様に死んだ人間の霊とかそんなオカルトテイストが混じって繰り広げられる『ちょっと怖い物語』ですね。とはいえ、ホラーテイストではなくオカルトテイストですので、直接的な恐怖事件が起きる、とかではないのですが。来楽零先生は、電撃文庫レーベルでは「哀しみキメラ (電撃文庫)」シリーズを書いていますね。
・登場人物
主人公でシェイクスピアが好きな、雛田香奈実に片思い中の如月行哉。恋愛感情が理解できないが憧れはある明るい美人の雛田香奈実。引っ込み思案な雛田のお気に入りの新堂藍子。美形でモテるが家庭の事情で意外と苦学生をしていてバイト三昧の西園寺次郎。クールな性格で言う事はキツいが的確な村上真由。
・シナリオ
そこにいるだけで空気が華やぐような綺麗な少女、雛田香奈実。彼女にうっかり一目惚れした僕が演劇部に入部してしまってから数カ月、文化祭公演のための台本を選ぶ時期がやってきた。
現役の演劇部部員は僕と雛田を含め、一年生五人きり。僕たち五人にはそれぞれ想い人がいたりいなかったりしたのだけれど、部室で見つけた、ぼろぼろの『ロミオとジュリエット』の台本を使うことに決めたときから、五人の心に奇妙な変化が起こり始め―。
これは、「すき」と言えない高校生の揺れる思いを描く、ちょっと怖い物語。(カバー折り返し及び7&YHPより抜粋。)
・感想
演劇部所属の5人が文化祭で公演する為の最低5人で出来る劇を探していたところ、偶然倒れた本棚から見つかった『ロミオとジュリエット』を採用した事から始まる、練習期間から公演までの間だけに起こったオカルティックな出来事を書いた話、といった感じですね。
登場人物5人に、それぞれ過去の人物の妄執と言うか想念が取り憑き、5人の心にそれぞれ影響を与えて今の5人の関係に波紋を投げる―――そんな中での過去の心と今の心の葛藤。或いは行動の是々非々を自問自答する―――そんな、自分の心と、自分の心と区別がつかないが入り込んだ事だけはわかる他人の心が与えた影響に変化した部分との齟齬による懊悩が、印象的でした。
この作品はコメディでもあり、ミステリ的でもあり、オカルトものでもありますね。
5人の人間―――男2人と女3人のところに、男1人と女4人の想念が取り憑く。つまり男のどちらかには女の想念が取り憑くわけで男(心も男)×男(心は女)というBL的な演出がありましてそれを嫌って逃げるという演出がコメディっぽくなってます。
ミステリ的というのは、謎の影響を受けた自分たちの心の変化の理由を求めて、過去の部員達の足取りを追っていったりする部分ですね。とはいえ謎らしい謎と言うのはすぐ解決されると言うか、作品中で説明されますのでミステリの部分はそう多くは無いです。
そしてオカルトものという表現。これが一番作品に含まれている要素としては多くなるんじゃないでしょうか。主人公を含む5人の心に影響を与え、終盤までそれぞれの心に色々な感情を誘発させるそれは目に見えない『何者か』の感情の、文字通り『憑依』としか言えない現象。この現象はオカルト、としか言えないのではないでしょうか?
それらを経て、最終的に各自それぞれ心の成長を見せて物語は終わります。抱えているだけだった心を解き放つ事を決意する者、ある感情に気がつく者、自分の中の感情を大事にしながら進んでいく事にした者、思い切ってその心を相手に打ち明けた者、変わらないように見えてその実、しっかり変化している者などとなって。
恋は素敵なだけではない―――苦悩を呼ぶし、嫉妬も誘発する。時には怨念にまで昇華する。しかし心の持ちよう一つでそれはどちらにでも転ぶ危うくも素晴らしいものである―――そんな気持ちを、覚えましたね。