シャムロック5

シャムロック5 〜りかちゃんのなんでもお悩み相談室 ですぅ〜〜

著者・沢上水也先生。挿絵・西脇ゆぅり先生による、GA文庫創刊時に刊行された作品の1つです。沢上先生は他作品として徳間デュアル文庫から「舞−乙HiME列伝」などの作品を出されていますね。挿絵の西脇先生はPCゲームの「きると」が代表作です。
・登場人物
美少年だが常識知らずのマッドサイエンティスト久我原桂一。そんな桂一に心酔してついて行く、天然の性格をした元茶道部部長現世界征服研究会未来警察同好会有限会社シャムロック・カウンシル社長という肩書きが色々と変わる通称”白メイド”の漣恋歌。十六夜学院生徒会の生徒会長の正義を追求する少し単純な突撃少女、通称”赤メイド”中瀬古舞。同生徒会副会長の舞に心酔し彼女をサポートする事に全力を傾ける長刀術などの武芸を修めたお嬢様の通称”青メイド”こと藤堂乱菊。コスプレオタク美少女の通称”黒メイド”東雲クリス。第1巻の事件に巻き込まれた結果、シャムロックに協力する立場になった図書館司書の氷取沢香澄。第2巻から登場の洗脳説得メガホンという道具を使い相手の精神に訴えかける話術を得意とするシャムロックの対外交渉人(ネゴシエーター)の、”偽シスター”こと簗瀬理佳。そしてその弟で熱血ヒーローやロボット好きが高じてシャムロックに入った”下っ端”こと簗瀬浩樹。そして敵か味方か。巨大企業ハリントンの戦略研究室”ヘッドクウォーター”の謎の女、その正体はAIというロウヒ。
サブキャラクターにはシャムロックと同じPP−民間警察−の、チキンポリス所属の楓四姉妹などが登場します。
・シナリオ
今日もまた、迷える子羊がやって来る。「どうなさいました?」優しく呼びかけるシスターは、清らかな慈愛に満ちあふれ…ては決していない、メイドポリスの敏腕ネゴシエーター・簗瀬理佳その人だった!ひょんなことからシャムロックのメンバー全員のお悩み相談にのるハメになった“りかちゃん”。だが、持ち込まれる相談は当然ながら無茶なモノばかり。はたして新米偽物シスターに未来はあるのか!?シャムロックシリーズ初の短編集。(7&YHPより抜粋。)
・感想
今巻はシャムロック各メンバーを話の種とした、短編集です。
各シャムロックメンバーの悩み相談と言う形で、偽シスターこと簗瀬理佳が話を聞いてその悩み解決の糸口としてアドバイスをする―――。その結果起きた事態を書いた作品、といった様相ですかね。
話は全部で6つ。各メンバーを中心とした話「久我原桂一の世界征服レッスン」「東雲クリスの世界征服人形」「漣恋歌のジェラシック・パーク」「藤堂乱菊の淫靡な夜」「中瀬古舞、または失われた正義について」と5つと、番外編「名探偵はお見通し」が1つです。他に閑話として、各話の間に話の種となったメンバーの裏話的なものが挿入されています。恋歌と桂一の出会いの話や、簗瀬理佳トップレス事件の裏事情、などが。
この巻は短編集と言う事で、話の種になったキャラクターに焦点を絞った話がメインでした。それぞれ、桂一が『萌え』を理解する為に女装することになる話。クリスの同人活動でフィギュアが売れておらずそれを桂一に手伝わせようとして舞が手伝うことになる話。恋歌の桂一とスキンシップが出来ない悩みを解決する為の話。乱菊の両親による結婚話を避ける為に桂一と偽装恋人関係になる話。舞が自分の正義を見直すために桂一の犯罪の証拠を掴もうと彼を尾行する話。それと、それぞれの立場も何もかもリセットし、キャラクターだけを使い新しい役どころでコメディな話を繰り広げる番外編、と、番外編を除いては話の中心となるシャムロック・メンバーがいますね。
そのどの作品にも、シャムロック・メンバーの考えている事が書かれていてキャラクターの掘り下げを助けていましたね。桂一が意外に『萌えコスで世界征服』と最初に掲げた理念に悩んでいたりする事や、クリスが本当に同人の事しか考えていない事、恋歌が心底桂一に惚れ込んでいる事、乱菊が生徒会長ラブだけど藤堂家の者として結婚相手の事で悩んでいる事、舞が正義について迷う事もある、など。また、それらの話に今後に関する伏線があったりと作品的進展を助けるギミックが隠されていたのも印象的でした。まさかあそこで出ていたキャラクターが、第2部に関係のあるキャラだったとは…。
そして番外編。これは、登場人物の性格などはそのままに立場―――シャムロック・カウンシルなどそういった設定を無くし、各自に新しい立場を与えての”If”の物語ですね。桂一が名探偵、クリスがその助手、恋歌・舞・乱菊が屋敷のメイド、クリスの母、フランソワが屋敷の当主の未亡人で、香澄は元・当主の愛人。フランソワの秘書としてロウヒ、といったように。
しかし、登場人物の立場を変えてもシャムロックとしての作風は変わっていませんでした。むしろ止める者がいないGUDAGUDA状態へ突入。といった有様で。桂一の天才性が暴かなくてもよい事件や秘密を暴きまくり、話は迷走しまくってました。それでも綺麗にオチさせている辺り、作者の力量、というヤツでしょうか。投げっ放しに終わる番外編などよりよっぽど読み応えはありましたね。
総じてこの巻は、作品としての進展は無い巻ですが今後に関する伏線が張られていたり、キャラクターの語られていなかった一面が語られたりしつつ、黒い思惑や裏事情無く登場人物たちのドタバタのみ楽しめる巻として、作品単体の面白さというやつが楽しめる作品ではないでしょうかー。