シャムロック4

シャムロック4 〜逆転のチェックメイト ですぅ〜〜

著者・沢上水也先生。挿絵・西脇ゆぅり先生による、GA文庫創刊時に刊行された作品の1つです。沢上先生は他作品として徳間デュアル文庫から「舞−乙HiME列伝」などの作品を出されていますね。挿絵の西脇先生はPCゲームの「きると」が代表作です。
・登場人物
美少年だが常識知らずのマッドサイエンティスト久我原桂一。そんな桂一に心酔してついて行く、天然の性格をした元茶道部部長現世界征服研究会未来警察同好会有限会社シャムロック・カウンシル社長という肩書きが色々と変わる通称”白メイド”の漣恋歌。十六夜学院生徒会の生徒会長の正義を追求する少し単純な突撃少女、通称”赤メイド”中瀬古舞。同生徒会副会長の舞に心酔し彼女をサポートする事に全力を傾ける長刀術などの武芸を修めたお嬢様の通称”青メイド”こと藤堂乱菊。コスプレオタク美少女の通称”黒メイド”東雲クリス。第1巻の事件に巻き込まれた結果、シャムロックに協力する立場になった図書館司書の氷取沢香澄。第2巻から登場の洗脳説得メガホンという道具を使い相手の精神に訴えかける話術を得意とするシャムロックの対外交渉人(ネゴシエーター)の、”偽シスター”こと簗瀬理佳。そしてその弟で熱血ヒーローやロボット好きが高じてシャムロックに入った”下っ端”こと簗瀬浩樹。そして敵か味方か。巨大企業ハリントンの戦略研究室”ヘッドクウォーター”の謎の女、その正体はAIというロウヒ。
サブキャラクターにはシャムロックと同じPP−民間警察−の、チキンポリス所属の楓四姉妹、裁判官の藤倉。敵としてはハリントンの傭兵シュタックハウゼンなどが登場します。
・シナリオ
シャムロック最大の危機とは……!?クリスマスイブを間近に控えた12月23日。新相武市は近年まれに見る大雪によって交通網が遮断され、外部と全く行き来できない状態に陥っていた。しかしそれを良いことにクリスの家でのどかにパジャマパーティを楽しむシャムロックの面々ではあったりするのだが(笑)
だが日本政府が新相武市に非常事態宣言を発令したことで事態は急速に緊迫の度合いを深めていく……!
御堂家傍流の陰謀とは? そして桂一に忍び寄る魔の手の正体とは?
そこには一人静かにほくそ笑む謎の美少女の姿があった……。
「フッフッフ、思った通りね。…久我原桂一、わたくしの掌の上で踊りなさい!」(7&YHP及び裏表紙より抜粋。)
・感想
この巻は大まかな流れをシミュレーションゲーム風に書くと、『護衛対象を救出後、目的地まで時間内に送り届け、その後に敵を全滅させる』といった形で話が進んでいきます。
今巻での敵役は前巻にも登場した御堂家傍流。その別のメンバー、といった所です。御堂凛子を頭に据えた、御堂家所縁の面々による御堂グループ乗っ取り計画と、同時進行の日本政府クーデター計画が今回の騒動ですね。
シャムロックの面々が試験前に集まって試験勉強をしている最中、十六夜学院の機能が御堂家傍流の手によって麻痺し、シャムロック・カウンシルこと警察同好会の部室である茶室が襲撃されることから始まる今回の事件。しかし当初は攻められている側の筈のシャムロックですが、終始相手の先を読むというか相手の行動を予測して的確に対処を続けていて、頭脳の違いというか地力の違いというかを見せつけ、伊達にロボットテロ事件(第2巻)やサイバーテロ及び文化祭襲撃事件(第3巻)を解決していないな、と格の違いを見せるといった感じでしたね。つまりそれだけ、今巻の事件の第1の首謀者―――御堂凛子とその一味はへなちょこと言うか、どうにもどこか抜けている印象がとても強かったということなのですが。しかしその分、もう1つの首謀者―――ハリントン・ジャパン・ポリス・サーヴィス所属の傭兵でクーデター計画の一翼を担うシヴァ戦車を率いるシュタックハウゼンは、全体で見るとやはりシャムロック―――桂一たちにいい様にあしらわれているのですが、プロの傭兵らしく与えられた仕事を完遂しようとしていて印象深かったです。御堂凛子との対比もあり、シュタックハウゼンは最後は多少見苦しい、情けない悪役の側面もありましたが総合して見ると御堂凛子より芯の通った悪役らしかったですね。
そして前巻は出番の無かったシャムロック所有の2足歩行ロボット『ストレンジラブ』の再登場。しかも今巻も情けない演出がありますが、同時に普通に格好良い演出もあり、前巻に出ていない分も倍の活躍、といった感じでした。
そして話は、攻められ続けていたシャムロックが見開きによるメイドポリス全員集合の絵から逆転の展開が始まり、対象の救出から目的地までの移送のくだりは、スピード感を重視したテンポの早い作風で書かれていました。連携で移送を援護していく所では秒単位での描写が時間の経過とギリギリ感を感じさせてくれ、シヴァ戦車との戦いの前には理佳とクリスによる情報戦の布石と少しのお色気展開による息抜き、そしてその後のシャムロックを指示する人たちによるお祭り騒ぎのノリでの対ハリントン@シヴァ戦車戦はこれまでの攻められムードから一転しての逆襲開始に、お祭りノリで何でも有り的な雰囲気で、血生臭いはずの戦いのシーンも妙に軽くなっていてお気楽に読める展開になっていましたね。
そしてまたもラストに飾られるオチ。格好良く決めているように見えた桂一の考えていた思惑が、何とも打算塗れでやはりシャムロック的な「なんじゃそりゃあ!?」なオチが笑えました…と言うか、確かに桂一ならそう発想するなぁ、と妙に納得できたというか。キャラクターに合った発想をオチに持ってきていて、さらにもう1つの話として最後に語られるのがシュタックハウゼンのしんみりとした綺麗なオチで、笑いとシリアスという二重の意味で綺麗にオチていて、読んでいて最後まで面白い作品でしたね。