くじびき勇者さま 4番札

くじびき勇者さま 4番札 誰が女神さまよ!?

著者・清水文化先生。挿絵・牛木義隆先生によるお気楽気味なファンタジー世界でのくじびきで選択された勇者とその従者の珍道中物語、と言った感じでしょうか。清水先生の他著作は、富士見ファンタジア文庫からデビュー作「気象精霊記」シリーズ、「あんてぃ〜く」シリーズなるものを出しているようです。挿絵の牛木義隆先生は徳間デュアル文庫の「とくまでやる」シリーズやJIVE出版の「ゲヘナ リプレイ アザゼル・テンプテーション」シリーズなどの挿絵を描かれていますね。
・登場人物
主人公でヒロインの、料理が宮廷料理人級で様々な文学に長けた博識という以外はただの見習い修道女から、国を上げて行った『救世の勇者の選出』のくじびきによって『勇者の従者』となったメイベル。もう1人の主人公で、普通の、騎士団入りを目指して選抜くじ引きに何度も挑んでは当たりくじを引けずに落選していたが、『救世の勇者を選び出すくじ引き』で見事勇者のくじを引いた剣士ナバル。メインは基本この2人で。サブとしては、メイベルの親友で同じ見習い修道女のパセラ。騎兵隊長でメイベルが好きな貴族の騎士クラウ。パセラたちと同じ見習い修道女で貴族の娘のレジーナ。メルカトル夫妻とその家族、などですか。
・シナリオ
無事に救世の旅を終え、勇者となったナバルとメイベル。しかし褒賞のくじびきが原因で逃亡者になってしまう。逃亡生活の途中で出会った隊商を賊から救った2人はその用心棒として旅をすることになった。旅の途中でも、その知識を元にたくましい生活力を発揮するメイベル。そんなメイベルに対して自らの無力さを感じたナバルに心の変化が訪れる…。(7&YHPより抜粋。)
・感想
新章開始、といった様相でしたね。ドラゴン病ことデスペランを防ぎ、ドラゴン教団との宗教的対立を解決して晴れて凱旋したナバルとメイベル。その2人を待っていたのは一部の特権階級の黒い思惑で、2人は暗殺から逃げる為に手に手を取って逃亡する。かくして2人の逃亡劇が始まる―――。そんな感じですが、このシリーズの特徴である軽いノリは無くなっていないので、重たい話ではありません。相変わらずメイベルは説明好きで逃げる最中も知り合った人にその説明を長々と披露していたりしていますので。
この巻からは2人の逃亡生活を中心にした描写が中心でしたね。盗賊に襲われていた馬車を助けてお礼に町まで乗せてもらったり、馬車に乗っていた家族と仲良くなったり、手違いの手配書が町々に回されていてその関係で賞金稼ぎと戦う事になったり、賞金稼ぎと船上で戦い川に落ちたりと、中々波乱の逃亡生活を送っていました。ですが、ナバルもメイベルもその本質的なところ―――キャラクターは、逃亡生活となっても変わっていませんでしたね。むしろ逃亡生活を初めて少し成長している、といった感じでした。博識のメイベルも知識でしか知らなかった事を実践を経てより深く理解し、ナバルはナバルで自分にできること―――剣を振るうという、逃亡生活では局地的にしか役に立たない事以外のことを覚えて、それでメイベルを助けられるようになろうとしていたりと、それぞれ自分の長所を伸ばそうとしたり他にできることを見出して伸ばそうとしていたりと、これまでが成長も含めながらもメインは捜索というか探索の話だとしたら、この巻は逆に、成長に重きを置いた話でした。
それと同時に恋話―――その辺りも「青春している」と作中で語られるように、メイベルが年相応に反応したりするもナバルの朴念仁ぶりに振り回されたりスカされたりしていて、微妙なラブ・コメディ風になっていて面白いです。気にし過ぎているメイベル、まったく鈍感なナバルと、その2人の擦れ違いぶりが笑えます。
また、他の登場人物―――クラウやパセラ、レジーナなどのサブ・キャラクターたちの話も動きがありましたね。友人A―――そんな呼び方をしていたパセラの過去をクラウが知って、胸中思うところがあったり、メイベルやナバルの誤解を解く為に2人の後を追って町へ向かったりと、サブ・キャラクターにも動きのある巻でした。