ステレオタイプ・パワープレイ

ステレオタイプ・パワープレイ (SQUARE ENIX NOVELS)

ステレオタイプ・パワープレイ (SQUARE ENIX NOVELS)

ステレオタイプ・パワープレイ

著者・川口士先生。挿絵・ぴと先生による第3回SQUARE ENIX 小説大賞入選受賞作だそうです。
・登場人物
主人公の、小学生時代に異世界を救った元勇者で中学生時代に宇宙海賊から汎銀河の帝国を救った救世主で高校生になってから北欧で秘密結社ノスフェラトゥ機関と戦い倒した事があるという石川涼。ヒロインはそんな涼の幼馴染の佐賀夢乃。涼の義妹の福井希美。涼の義母の福井美幸。異世界ファルガードスの神君の巫女であり涼をかつて異世界に召喚したシグ=リリン。異世界ファルガードスの魔族の頂点である魔王のサラ・パラム・ティバ。涼と共に汎銀河を荒らしていた宇宙海賊を撃退し、平和を取り戻したナーラ・スィーフィーア・ダイアスト・アヴァロニア。ノスフェラトゥ機関と戦っていたアンドロイドの富山楓。魔物が封じられていた魔道書が破れ中の魔物が放たれてしまい、魔物の最封印のために多数の実績を持つ涼を頼ってきた宮崎愛深。主人公&ヒロイン・サブヒロイン、といったところはこんなところで。
サブキャラクターもしくは敵役としては、異世界での涼の戦友ギーヴ。スィーフィーアに仕える秘書兼友人のようなデルティア。ノスフェラトゥ機関の生き残りファルス・アクター新総統、などでしょうか。
・シナリオ
石川涼は世界の危機と幼なじみ。
小学生の時に救済した異世界から、
中学生の時に解決した銀河から、
去年共に地球を守ったアンドロイドから、
今日転校してきた女子高生から、
同時に発せられたのは
聞きなじみのあるあのセリフ。
『世界の危機です。救ってください!』
―――そして始まった、
石川涼の擦り切れるほどのパワープレイ。(裏表紙より抜粋。)
・感想
この作品は兎に角内容が盛り沢山です。異世界ファンタジー、宇宙舞台のSF、現代を舞台にした魔法戦、科学の結晶の激戦、と。かと言ってどれも少量で物足りない、ということは無くどれもこれも相応の分量で書かれています。
話としては、これは「かつて世界を救ったりした勇者がその後、また騒動に巻き込まれる」といった様相ですね。
何度も世界を救済している凄い確立で勇者をし続けている石川涼。そんな彼が平穏無事な高校生活を望むも、今回も騒動に巻き込まれる。しかもその騒動は過去に彼が救った世界にも関わりがあって、彼がこれまで体験したこと全てを巻き込んでの一大騒動。それがこの作品の中で繰り広げられていきますね。
この作品は基本的には過去、主人公である石川涼が何をしていたのか―――それを語ると同時に、今回の騒動においてかつての武器防具や人脈などを掘り起こしながら、少しづつ黒幕に迫る―――と言うか、近づいていき、最終的には異世界、汎銀河、現代を巻き込んでの大決戦になる―――そんな物語の流れになっていましたね。
主人公の石川涼が、『複数の世界の救世主』という設定が面白かったです。ある世界では聖剣を駆る勇者、ある世界では乗り手が限定される機械人形の力を圧倒的に発揮できる操縦者、ある世界では魔術書を行使し魔導の力を使える稀な素質の持ち主―――。かつてはそれぞれの世界で望まれた役割を果たせばよかったが、しかし今回の話では、最終的にそれら全てを同時にこなさなければならない、と。その最後の様々な世界の力が同時に行使されている様子、関係者が一堂に会しながら決戦をしているのは、ごった煮的というか、異世界、宇宙、魔術、などとまったく違う要素を主人公の存在で纏め上げてタイトル通りの『パワープレイ』で結末まで持って行くイキオイは、呼んでいて小気味良かったです。
一見すると、聖剣を持って軍を吹き飛ばしたりするような派手なシーンに目が行きますが、その一方で自分たちと敵対してしまった義妹や義母を説得するのに、幼なじみと義妹で喧嘩口調での話し合いと意地の張り合いがあったり、涼と義母の間で口に出しかねていた感情を伝えるという展開があったりと、一面的な展開ではなく人と人との関係を一歩踏み込んで書いていたりしていました。
単純なバトル要素ばかりでないのもこの作品が受賞した理由でもあるでしょうね。