くじびき勇者さま 3番札

くじびき勇者さま 3番札 誰が聖女よ!?

著者・清水文化先生。挿絵・牛木義隆先生によるお気楽気味なファンタジー世界でのくじびきで選択された勇者とその従者の珍道中物語、と言った感じでしょうか。清水先生の他著作は、富士見ファンタジア文庫からデビュー作「気象精霊記」シリーズ、「あんてぃ〜く」シリーズなるものを出しているようです。挿絵の牛木義隆先生は徳間デュアル文庫の「とくまでやる」シリーズやJIVE出版の「ゲヘナ リプレイ アザゼル・テンプテーション」シリーズなどの挿絵を描かれていますね。
・登場人物
主人公でヒロインの、料理が宮廷料理人級で様々な文学に長けた博識という以外はただの見習い修道女から、国を上げて行った『救世の勇者の選出』のくじびきによって『勇者の従者』となったメイベル。もう1人の主人公で、普通の、騎士団入りを目指して選抜くじ引きに何度も挑んでは当たりくじを引けずに落選していたが、『救世の勇者を選び出すくじ引き』で見事勇者のくじを引いた剣士ナバル。メインは基本この2人で。他に、メイベルの親友で同じ見習い修道女のパセラ。騎兵隊長でメイベルが好きな貴族の騎士クラウ。西の山のマウンテン・ドラゴンたち。メイン。サブはこんな所で、他にはドラゴンを崇め奉る「ドラゴン教団」を纏めるテロ組織の幹部ブルーノなどが敵役、でしょう。
・シナリオ
新発見をするたびに大はしゃぎな従者メイベルと実直で脳筋な勇者ナバル。仲良く喧嘩しながら旅を続ける2人は、神の導きである「くじびき」に従い、ついに全ての問題の発祥の地である「竜の山脈」のふもとにたどり着く。激化するドラゴン教団の抵抗、人と竜の争いを巡る陰謀。数々の苦難を乗り越え、2人は世界に平和をもたらすことができるのか。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この巻で第一部完、といった様相でしたね。ドラゴン病―――デスペランが再び猛威を振るうのを食い止め、その原因を調査解明し、ドラゴン教団との宗教的対立を解決する――ーこの目的が、この巻で全て解決されていました。
前2巻分の出来事を経て、ナバルとメイベルもなんだかんだで距離が縮まり互いに意識するようなところもあったり(主にはメイベル中心でしたが)して、男女の関係としても面白い事になってますね。朴念仁くじびき至上主義剣士と、説明大好き博識魔法使い正修道女。この2人の掛け合いもこなれてきて段々良い按配になっています。
そして前巻ではカーム・コップだけだった登場するドラゴンが、今巻ではそのカームの孫娘や仲間達、と続々と登場します。そのドラゴンたちとの異文化コミュニケーションに、メイベルが呆然としつつも和気藹々としていくのは旅先で知り合った人と交流する―――そんな普通の旅の楽しみ、といったものを垣間見れました。
第一部の締めくくりとして、この巻でデスペランが発生する原因が解明され、その対策が講じられてナバルとメイベルの旅は終わるわけですが、それに至る経緯もまたこの作品の作風に合わせられた、「論理的な原因究明」でしたね。農耕の基礎知識や肥料に使われる材料の副作用、植物の持つ二面性。そういったものを追求していくうちに解決に至る―――そんな、順序立てた原因の究明はキチンと読むほどに説得力が増し、納得できる結果に落ち着いていきます。このシリーズの作品らしい終わりのつけ方だったと思います。
そして最後の逃亡劇。英雄となって終わり、のはずがまた別の理由で旅立つ事になっていましたが、ここまでの偶然を省みるに、何かしらの理由があってのこと。まだナバルとメイベルの2人の旅はやらなければいけないことがある。だから逃亡劇になった―――と、物語の先を続けていく展開なだけなのに、これまでの『偶然』で進められてきた話を思い返すに運命的なもの―――文字通り神のみぞ知る『何か』があるように思えてしまいますね。