くじびき勇者さま 1番札

くじびき勇者さま 誰が小娘よ!? (HJ文庫)

くじびき勇者さま 誰が小娘よ!? (HJ文庫)

くじびき勇者さま 1番札 誰が小娘よ!?

著者・清水文化先生。挿絵・牛木義隆先生によるお気楽気味なファンタジー世界でのくじびきで選択された勇者とその従者の珍道中物語、と言った感じでしょうか。清水先生の他著作は、富士見ファンタジア文庫からデビュー作「気象精霊記」シリーズ、「あんてぃ〜く」シリーズなるものを出しているようです。挿絵の牛木義隆先生は徳間デュアル文庫の「とくまでやる」シリーズやJIVE出版の「ゲヘナ リプレイ アザゼル・テンプテーション」シリーズなどの挿絵を描かれていますね。
・登場人物
主人公でヒロインの、料理が宮廷料理人級で様々な文学に長けた博識という以外はただの見習い修道女から、国を上げて行った『救世の勇者の選出』のくじびきによって『勇者の従者』となったメイベル。もう1人の主人公で、普通の、騎士団入りを目指して選抜くじ引きに何度も挑んでは当たりくじを引けずに落選していたが、『救世の勇者を選び出すくじ引き』で見事勇者のくじを引いた剣士ナバル。メインは基本この2人で。他に、メイベルの親友で同じ見習い修道女のパセラ。騎兵隊長でメイベルが好きな貴族の騎士クラウ。メイン。サブはこんな所で、他にはドラゴンを崇め奉る「ドラゴン教団」を纏めるテロ組織の幹部ブルーノなどが敵役、でしょう。
・シナリオ
「くじびき」で運命を決めるという大陸最大の宗教「ソルティス教」の見習い修道女メイベルは、実はくじびきが大キライ。それでも好きな研究や魔法の訓練に明け暮れながら、それなりに平和な日常を送っていた。だが、同じ見習い修道女のパセラと買い物に出かけた街中で、くじ運最悪の剣士ナバル、軽薄な近衛隊長クラウとともに、異教徒によるテロ事件に巻き込まれて…。清水文化が贈る近世風ファンタジーシリーズ第1弾。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は独特の世界観からなるファンタジーものですが、この作品で見事なのはその『独特な世界観』を無理無く読者に認知させる手法としてヒロインが『説明好き』という設定を取った事ですかね。地の文による淡々とした描写だけでなく、会話の合間にヒロインが繰り広げる「会話」とすることで説明をその場に読者もいて他の登場人物が作中で説明を受けているのと同様に「聞いている」感じにして読者を飽きさせない手法になっていました。
話の主な流れは、ナバルやメイベルたちが住む最初の舞台となる町でのテロ騒動とそれに伴うナバルとメイベルの活躍。そして2人が旅立つことに至るまでの経緯、といったところでしょうか。
基本的な魔法などの超存在がありますが、これも理性的論理的に処理されていて『万能の力』では無いので登場人物たちは皆、頭をひねったり知恵を絞ったりして魔法を使っていました。これも好感です。ただの剣に加熱の魔法を使いヒートソードもどきにしたり、何でも『魔法だから』で終わらせる事無く、下地、裏付けのある使い方をしていて魔法なのだけど化学的、というのが面白かったですね。
それだけ理性的だったり論理的だったり化学的に考証されていたりするのですが、話の流れと言うか物語の運び方は『偶然』。これもまた作風である科学的とか論理的とかと対比されていて面白いですね。主人公達―――ナバルやメイベルが、行き先をくじびきによって決定すると、有り得ない方角の有り得ない町が目的地だったりする。何か目的があるのか?いや、撹乱する為の偽情報か?裏をかくつもりだろうがそうはいかない、きっと別のあの町に来る!と考えて真っ当に受け取らない。結果、ブルーノたち敵側は偶然にもナバルたちと擦れ違いまくってナバルたちは安全な旅になる―――と。科学でも論理でも何でも無い、単なる偶然と理性的に考えた結果ナバルたちとすれ違ったりと、話の流れが『納得できる偶然』で進んでいくのは面白かったです。それでも最後には対峙し決戦となったりする辺りは、偶然だけでは終わらない、とも思えて良かったですしね。
そして最終的に選択されるナバルとメイベルの主人公2人の、当然ながらの英雄候補選出決定のくだり。ここもファンタジー物の王道ながらこの作品特有と言えるでしょう、『偶然』が演出し『理性的』にメイベルが反論しながらも話が進んでいくのは、作風そのものを暗示しているような感じでしたね。