ヒツギでSOSO!

ヒツギでSOSO! (ファミ通文庫)

ヒツギでSOSO! (ファミ通文庫)

ヒツギでSOSO!

著者・文岡あちら先生は本作が小説家デビュー作ですが、それ以前にもマンガを描いたり映画に出たりと多才で奇才な男、だそうです(カバー折り返し自己紹介欄より抜粋。)。挿絵・よう太先生で、挿絵のよう太先生は色々なアニメやゲームの原画などに参加していて、2007年6月時点では『E×E』(ゆずソフト)のOPムービーに関わっていたそうです。
・登場人物
メインキャラクターは、主人公で将来をエリート処刑官と期待されて養成学園である十三学園に通っているが、人を処刑するより処刑した後の事である葬儀関係の事柄の方が得意な比津木奏輔。ヒロインに奏輔に好意を寄せる、奏輔が住むアパートの大家の娘で奏輔同様に処刑官となるべく十三学園に通う条禅穂風里。巨乳アイドルっぽい存在の、だがPTSD能力という過去の悲惨な体験を経て発現した特殊能力で犯罪者を嬉々として処刑する現役エリート処刑官の荊伊姫璃子。テロ集団『バレットフィスト』頭目でこの作品でのある意味キーパーソンだった男、アランド=サーレス。そのアランドの養娘で二代目バレットフィスト頭目を襲名した13歳の少女アリカ=サーレス
その他、アランドに惚れこんで彼と行動を共にしていた実質的なバレットフィストのサブリーダーのジョッブズ。アリカに心酔するバレットフィストメンバーだが腕っ節は弱いラギ。その他お婆さんや一般生徒などがサブキャラクターでしょうか。
・シナリオ
「ビーッ!ガコン」今日も鳴り響く末期の音…。凶悪犯罪撲滅のため、エリート処刑官を育成する“十三学園”。そこに通う比津木奏輔は、超粛清の力“PTSD能力”発現の期待を受けながらも、なぜか葬儀実習に打ち込む日々。そんなある日!美幼女率いるテロ集団が、幼なじみ共々奏輔を拉致!鬼乳処刑官も追ってきて、出自不明のホトケを巡る長い旅が今始まる―!“命”と“葬儀”を賭けた、えんため選考会激震の最終兵器、戦慄の大投下!!
・感想
第8回えんため大賞で最終選考で色々と問題作として話題を攫った作品だそうですが、読んでみると成る程こいつはそこらの作品とはちょっと違う一味があるな、といった感じですね。まず世界観が近未来で、微妙に今と変わらない雰囲気ながらも違うところとして『処刑官養成学園』等の存在がありますが、これがクセものですね。合法的に人を殺す事が職業の人を、大々的に認知して養成し、その上で一部はアイドル宜しく祭り上げている―――。そんな一種狂った世界で繰り広げられる、人の葬儀に関しての騒動。丁寧に葬儀に関しての話が説明されたりする一方で、処刑官による虐殺とも言える描写もあったりで、両極端な展開が繰り広げられていて扱っているテーマとして『人の生死』があるのはわかるのですが、どちらにバランスが傾いているのか、どちらを重要視しているのかが途中までだとよくわかりませんでした。ラストの最終的な締めとしては少年向け文庫として綺麗に落ち着いていましたが、それまでの過程とかだけを見ると作品としてはなかなか、評価が難しいところですね。
そして前述の、葬儀に関しての丁寧な説明。この作品を読むだけで、葬儀と一言で言ってしまっていても実際のところ、葬式とはどういうものか、ということを自分がわかっていなかったと結構な人が理解してしまえるのではないでしょうか。宗教、宗派、土着の民族的習慣と世界各地でありとあらゆる問いえるくらいの葬式の形式、形態があるのだなと認識させてくれます。自分が知っていた葬式とはあくまで1つの宗教、宗派における形式でしかなく、世界にはもっと多くの形式があったのだな、と。
キャラクターそれぞれの魅力に関しては、どのキャラクターも光るところがあり、特徴的で読んでいてもその特徴が際立っていて存在感を感じましたね。葬儀に関して強い執着/思い入れを持ち、どこまでも自分のスタイルと貫こうとする奏輔。そんな奏輔を助ける為、あらゆる状況下で奏輔と共にあり時に自分の思い描いていた甘い展開が駄目になってもプロとして自分のする事をした穂風里。父の想いを継ぎたい、父を望む形で弔いたいとどこまでも強気の態度を崩さずに父の理想を追おうとした健気な13歳の少女アリカ。亡きアランドの忘れ形見を守るために最善を尽くし続けたバレットフィストのメンバー。敵として登場しエリート処刑官として奏輔や穂風里、アリカたちの前に何度も立ち塞がったが、その実は悲しい過去――ーPTSD能力発現の引き金になった事件の傷がまだ癒えていなかった、哀れで一途な女荊伊姫璃子。どのキャラクターも、それぞれ読者に訴えかける『輝き』を持っていて魅力に溢れていましたー。