神曲奏界ポリフォニカ 青2

神曲奏界ポリフォニカ ふゅーじてぃぶ・ぶるぅ

著者・築地俊彦先生。挿絵・兎塚エイジ先生によるシャアード・ワールド・ノベルス「神曲奏界ポリフォニカ」の、通称「青」シリーズの第2巻。主人公で神曲が演奏できるが理由があって神曲を演奏しようとしないでだらだら生活している青年クルナと、彼が唯一演奏する「精霊にとってたまらなく嫌な音」で、半ば無理矢理半ば自分からクルナに使われる精霊ルーファ・ワルトゥムシカ・トロイスを主軸にふたりの周りの人間や精霊が関わりながら進んでいく物語です。
今巻はクルナの弟と義理の姉に依頼され、とある家から駆け落ちした二人を探す事をメインに話が進んでいきます。駆け落ちした二人―――それは、人間と精霊、神曲楽士と契約精霊だった。クルナとルーファはルーファの知人である精霊、ササヤやハイディを仲間に引き入れて探し出すが、駆け落ちした精霊の事を聞いたハイディは昔との姿の相違に首をかしげながらも駆け落ちした精霊―――セニアを探す手伝いをする。途中、クルナの弟が所属する会社から手伝いとしてやってきた精霊のエステルとも合流し、2人を探し始めるクルナたち。果たしてクルナたちはタイラニ・ラーフィンとセニア・スーサ・キュビワニーを見つけることができるか。そしてその過程でエステルとササヤは、クルナが神曲を演奏したがらない理由の断片と、それに関係する人類至上主義穏健派とされる「ホゾナ理論」の事を聞く…。
人と精霊。神曲楽士と契約精霊。手を貸される者と貸す者。与える者と与えられる者。この2つの関係に、築地俊彦先生が鋭く切り込む―――と、言った感じですか。
今巻も人間と精霊との絆が深く感じられる展開はあまりありませんでした。ラーフィンとセニアが契約解除を嫌がって、家を捨ててでも関係を持ち続けようとしたいた件に絆を感じる展開があったくらいです。
ですが、前巻と合わせて読んでこの「青」シリーズでは「神曲に頼らない人と精霊との関係」を書こうとしているように感じられましたね。まず神曲ありき―――そんな人と精霊との関係に、神曲を用いないで成り立つ絆や信頼関係はあるのか、といった感じで。その為にクルナは新曲嫌いを公言して神曲を演奏しませんし、ルーファはクルナに使われている立場ながらも契約はしていない。その2人のスタンスが、神曲を用いない関係のひとつとして書かれているかと思いました。
ポリフォニカシリーズの売りである「信頼関係から力を見せる人と精霊」といったスタンスに真っ向から反逆する書き方、理念かと思いますが、神曲に寄らない人と精霊の関係は、これはこれで深く考えさせられる考え方で「青」シリーズはそういった学術的?な興味の深い作品だと認識を改めましたね。
また、シェアード・ワールドであることから「赤」シリーズとも繋がりがあり、その辺りでも楽しめます。今巻では少しだけコーティカルテも出ていましたので、今後でも舞台が整ってさえいれば「黒」のキャラたちも出てくるかも、と思えましたしね。まあ、「白」は時間軸が違うので無理でしょうけれど…(笑
今巻で取り上げられていたような、「神曲に寄らない人と精霊の関係は成り立つか?」をこれからの主軸に据えて物語が展開されていくなら、派手さは無いが深い興味をそそられる作品に化けると思います。ただ、派手さが無い分は読者を引き付ける魅力が必要と言う事ですが…その辺りは築地先生の描写力と構成力に期待、と言う事で。
総評すると「神曲に寄らない人と精霊の関係はあるか」ということを全編通して考察しているように思えます。人探しがメインな分、展開は探偵モノっぽくシティ・アドベンチャーを繰り返しているので契約精霊と神曲楽士が組んで敵とバトルしているのが好きな人にはちょっとお勧めしかねますが、十分に面白くなっていると思います。