時の魔法と烏羽玉の夜

時の魔法と烏羽玉の夜 (電撃文庫)

時の魔法と烏羽玉の夜 (電撃文庫)

時の魔法と烏羽玉の夜

著者・在原竹広先生。挿絵・GUNPON先生。在原先生は電撃文庫で「桜色BUMP」「TAKE FIVE」などといったミステリチックな作品を書いておられましたね。
ある時、もうじき高校生を迎える主人公・光田直日人は突然に黒服の2人組みに拉致される。そんな、何が何だかわからない直日人の前に、今度は彼を救おうとする女の子が現れる。気が強く、口を開けば情けない直日人を叱咤する彼女の名前は烏羽玉窈子。彼女は大型のペンのような物で不思議な力―――『書く』魔法を使い直日人を助け出すが、逃げて彼女に連れて行かれた先で、直日人は魔法の存在と自分がとある特殊な性質…「魔術の血」であることを知る。そうして直日人は、彼を中心にして動き出していた事態を知ることになる…。
50年前から続く話、時間を超える魔法陣「歳華陣」、『日裏翠陰』という男の存在、直日人の事を子供の頃から知る隣の家の謎の老婆「ばぁちゃん」…そういった様々な要因が、時間を超えた物語を形作り、盛り上げていきます。
この作品は『時間』が重要な役割を持つフレーズになっていますね。
魔法と言う存在が導き出した時を越える大魔術式・歳華陣。そこから起きる様々な出来事。50年前に窈子の祖父、烏羽玉蔵木に起きた悲劇とそれを引き起こした男、日裏翠陰との確執。窈子と直日人の交流。直日人の男としての成長。黒服2人組みが直日人を拉致した理由。そしてラストになるにつれて明かされる、ばぁちゃんの正体…
そう言った全てに「時間」が関わっていて、話が進むにつれて「成る程…あの時の会話はこういう意味か」とか、「あの時の交流がここで活きてくるのか」とか、感心させられます。伏線の張り方が巧い、ってんですかね。
日裏翠陰との戦いでキーパーソンとなる直日人に対して、普通の学生でしかない直日人に打倒・日裏翠陰の為に生きてきた窈子は激しく憤りますが、直日人と交流を深め、直日人に起きた出来事を近くで見ている間にいつの間にか直日人を認めている窈子の姿は、ラストに明かされる事情に納得するだけの説得力がありますね。そう言った意味での構成もまたお見事だと思います。
過去からやってきた悪意―――日裏に対して様々に対抗策を用意して対峙し、やがてはタイムパラドックスを考慮しながら針の穴を抜けるように最善策を捜していく展開は、とても盛り上がりました。
総評して、この作品は良く出来た2時間くらいのオリジナル映画みたいな印象でした。
「良く出来た」というのはそのまま良い意味での解釈で。『時間』を重要なフレーズとして持つだけに、後になるにつれて色々とわかっていく―――真実が明らかになるその情報を出すタイミングが、盛り上がり時、ここぞ、と言う時に出てくるので小気味良かったですね。