学校の階段5

学校の階段 5 (ファミ通文庫)

学校の階段 5 (ファミ通文庫)

学校の階段

著者・櫂末高彰先生。挿絵・甘福あまね先生による学園青春グラフィティ部活動ものかと。
学校の中を競技場の如く見立てて、規定のルールでその中を駆け抜けることを目的とする『階段レース』。その階段レースを部の活動としている非合法活動クラブ『階段部』。その階段部のメンバーによる、青春群像劇がこのシリーズですね。
今巻では、前巻まででこじれた階段部男子メンバー・井筒研と準階段部員と言えるかな?の女子メンバー・凪原ちえとの関係の決着がつく、といったところですね。
階段部部長・九重ゆうこに恋をする井筒研は、以前の巻でゆうこと間違って凪原ちえに告白してしまっていた。だがそれを間違いであったとその場では言い出せず、さらにそうするうちに周囲が井筒と凪原に関して騒ぎ出し、井筒も間違いだったとは言い出せなくなっていく。ただ凪原から逃げ回り続ける井筒。今巻は、そんな井筒と凪原の関係に決着がつくのを主人公、神庭幸弘の視点で見ていくことになります。
この巻では、大人しく引っ込み思案で自己主張が苦手な凪原ちえが自分を変えようと努力する姿と、井筒研の一種ひょうきんでさえある姿の裏に隠された内面での苦悩や葛藤が書かれ、2人のキャラクターを掘り下げていましたね。
井筒に告白され周りが騒いだ結果、見た目を気にした服装やメイクにより見目麗しく変身した凪原。流されるままにそういった姿になったが、その結果、中学時代からの友人から距離を取られてしまういそのことで悩む事になる。他方、井筒は凪原に対する自分の不義理が周囲の不自然な盛り上がりなどに関わっているとわかりながらもちゃんとした態度を取れていない自分に、けじめをつけると決意する。―――そして迎えるそれぞれの転換期となる日。井筒と凪原は、それぞれその時を越えた後どうなるのか―――で、それぞれの変化の時を書いていると思いました。
また今巻では、一風変わった階段レースが見られます。
これまでは、学園内部での階段部と他の組織(生徒会や陸上部など)との対立からくる内輪の階段レースが主でしたが、今巻ではついに対外試合と言いますか。学園祭を共同で開催する相手の「山上桔梗院学園高等学校」。そこに所属する、九重や刈谷の友人の知人たちと井筒が揉めた結果の決着として、階段レースを開催という形になっています。
総評して、この巻はまさに「井筒研と凪原ちえの青春群像劇」。
井筒がこれまで感じてきた心の内での周囲との齟齬。凪原がこれまで感じてきた心の内での周囲との齟齬。二人のそんな、心が感じていた違和感に決着がつく、あるいは自分なりの結論を出す、となっていてそこが見所かと思います。
少年の結論。少女の決断。そこに至る過程を、じっくり読み込めば、その時々に彼らが感じていたことにとても共感できると思います。

なお、蛇足ながら。―――井筒の二つ名も決まります。(笑