土くれのティターニア2

土くれのティターニア2

短編集形式で進んでいく、異形の少女と憑いているものが凄い少年の2人が過ごす日々の合間に起こる怪異解決譚、と言ったところですか。
基本的にはライトな感覚の妖怪物、と考えていればいいですかね。
主人公である大賀良文は、幼馴染だった女の子で美しく成長して転校生として良文の学校に転入してきた御崎明日香と再会するが、明日香は「山のカミ」と呼ばれる者に瀕死の重傷から救われる代償として、体の半身を山のカミに捧げ、現在は半身半妖の体で生きていた。半身半妖となった明日香はその力を有効に使うべく、人に仇為す妖怪を狩ると言う事もしているのだが、明日香は学校で行われていた安易なオカルトじみた行為は妖を無闇に刺激するとして看過せずにオカルトを行っていた者たちを最終的に力尽くで弾圧し、数人を登校拒否にまで追い込んだため、結果的に現在の明日香は「恐怖の暴君」と呼ばれ学校では恐れられる存在となる。
そして良文は、そんな異名を持つ明日香を1人にしておきたくないと言う気持ちもあり、また明日香の秘密、真実を知る者であるという上で、悪性妖怪退治を手伝える立場にあった。

良文の守護霊が桁外れに強力だったのである。

名もわからないが南国から祖父が連れてきてしまったのではないかという推測と出で立ちから「南国精霊(仮)」と呼ばれる良文の守護霊は、そんじょそこいらの浮遊霊や自縛霊など瞬殺でき、明日香であっても敵ではないほどの強力な守護霊として良文についていたのだ。
ただし、良文はその守護霊をまったく感知できないし、言う事を聞かせる事もできない。
だが、その強力な精霊はいるだけで牽制になるし、明日香を狙ってくる雑多な雑霊も追い払ってくれる。なので、そんな利害関係の一致から良文は明日香の悪性妖怪退治を手伝うことになる―――。というのが基本的な設定かと。

今巻は全部で5編。
沼に棲む子供を狙う水妖に明日香が自分の姿形をコピーされ、服を着ていない姿を誰にも知られないうちに退治しようとして四苦八苦する「水は誘う」
人の形を取って明日香たちに救いを求めてやってきた犬のクロと、クロの守る鞄に入っているという犬神の毛皮を狙ってくる猿神との戦いを書いた「真心は鞄に込めて」
夜に出かけた明日香が妖に襲われ、妖怪が幻術なりで襲ってくる中を一晩、良文と明日香の2人で乗り越える「夜の鳥」
良文たちのクラスメートの新井が妖怪にたぶらかされたのを、1巻で明日香や良文のしていることを知った英田史子の頼みも受けて救いに奔走する「糸を断つとき」
1巻で登場し、また明日香が『恐怖の暴君』の二つ名をつけられる原因となったオカルトサークル・メンバーの1人だが、『真の魔女』となることを志し今は知識の研鑚と精神の修練に励む水野由香里と良文の2人が、懲りずにまた同じことを繰り返そうとしている水野を抜いたオカルトサークル・メンバーたちを止めようとする「魔女の行く先」。
以上の5編が今巻収録分です。
よく知られている有名な話をベースにした物語が多く、とっつきやすい印象を受けましたね。
民話や童話などで典型的な展開を基本にして、それに現代風のテイストをつけてあるので、読んでいてなんとなく展開がわかるところもあるんですがその合間合間にちょっとした驚きとか予想外の展開もあったりして、なかなか飽きの来難いものになっているとおもいました。
個人的に面白かったのは「夜の鳥」と「魔女の行く先」。
「夜の鳥」は妖怪の幻術などから人間がどれだけ耐え切れるかというもので、いわゆる知恵比べ的なものです。が、最後の良くある手法ながら引っ掛かりやすい精神的な隙を、明日香と良文の関係性も踏まえて突いているのでなかなか上手い物だと思いました。
「魔女の行く先」は、水野由香里が魔女としての基本的な考え方やあり方を等々と語る件が、彼女の内面の成長を感じさせてくれるが、反面、友人たちへの説得において感情的になったりするなど、大人になろうとしている子供、的な面を見せてくれて興味深かったです。
総評して、派手な戦闘シーンや超必殺的な技、あるいは超越的頭脳による舞台操作的な解決策というのはありませんが、だからこそ感じられる古き良きゴースト・バスターズ的な印象が私には好感触でした。
絶対的な主人公ではなく、物事においてそれぞれが果たす役割を果たした結果、大団円に近い結末が待っているという体裁ですので納得しながら読める作品だと、私は思いますね。