アスラクライン13

アスラクライン13 さくらさくら

著者・三雲岳斗先生。挿絵・和狸ナオ先生によるハイスクール・パンクシリーズ作品の第8段です。著者の別著作としては「コールド・ゲヘナ」シリーズ、「i.d. (1) (電撃文庫 (0791))」シリーズ、「レベリオン―放課後の殺戮者 (電撃文庫)」シリーズ、後は単発?で「道士さまにおねがい (電撃文庫)」「道士さまといっしょ (電撃文庫)」なんてのがありますね。
・シナリオ
シリーズ衝撃のクライマックスへ!!
新たな機巧魔神(アスラ・マキーナ)《黒鐵(クロガネ)・改》を手に入れ、二巡目の世界へと帰還した智春たち。
そこでは洛芦和高校の生徒たちが、洛高最大のイベントであるクリスマスパーティの準備に勤しんでいた。
一見なにもかわらぬ平穏な日常。
だが世界の崩壊の予兆は、そのときすでに智春たちの世界にも訪れ始めていた。
非在化を始めた世界。
虚空に浮かぶ機械仕掛けの巨大な腕。
そして魔神相剋者と化した塔貴也、自らの目的を果たすために建てた巨大な塔……。
かつてない世界の危機を前に、操緒と智春が選んだ最後の決断とは……!?
(7&YHP商品紹介ページより抜粋。)
・感想
学園スクールパンク・シリーズの完結巻となります。
思惑を隠して智春たちの裏をかき、智春たちを一巡目の世界へと追いやった燈たち。そんな燈たちの思惑を越えて世界を渡る力を手にして、二巡目の世界へと智春たちが戻ってきたところから物語はスタートです。
前巻ラストは、ついに奏が非在化を起こしてしまい培養液の中で死に近い眠りにつき、そんな彼女を「僕の契約悪魔だよ」と宣言した智春―――というシーンで締められていましたが、今回はいきなりその状態の打破から始まります。二巡目の世界に戻ることで奏の昏睡が回復され、同時に燈たちに対抗する力を得るために、また奏の本当の回復のために、智春がついに奏と…!という展開は操緒と奏の間でフラフラしていた智春がついに色々な意味で覚悟を決めた!という感じでしたね。まぁ肝心の辺りの話は電撃文庫は健全な青少年向けのレーベルです、ということで朝チュンで表現、という感じでしたが。ラブコメ要素としては1人のヒロインが正ヒロイン的に確定するのは珍しいかもです。
メインストーリーは、二巡目の世界に戻った智春たちが、燈と燈の考え―――多大な犠牲を払って世界を非在化させる『神』を打倒する―――に賛同する者たちと、最後の決戦を始める、というものになっています。二巡目の世界に戻った智春たちは、そこが一巡目の世界に送られてしまった事件から一ヵ月後であることを知る。そしてその一月の間に、燈は『神』打倒の用意を進めていた。後必要なものは智春が持っている機巧魔神のプラグイン「イグナイター」のみ。全ての決戦はクリスマスの日―――!という感じで。クリスマスを迎えて智春側、燈側両陣営が総力戦を繰り広げます。この部分で、それぞれの陣営の人望的なものがハッキリしていました。友人として智春に協力する、或いは自分の意思で望みのために燈たちと闘う者たちの多い智春陣営に比べて、燈陣営は打倒『神』のために協力しているとはいえ、それぞれ個々の思惑は強いも願い自体は別々で繋がりが薄い有象無象の衆。その差が『絆の強さ』的なものを如実に示すこととなり、最後の決着に至るまでの過程で大きな差となって明らかになっていました。あくまで恋人だった橘高冬琉の姉、秋希を蘇らせるために犠牲止む無しで闘おうとした燈と、誰の犠牲を出すことも由としなかった智春とでは信頼を集められるのはどちらかハッキリしていた、という感じで。
全体としてはやや駆け足感のある幕だったかも、とは思います。燈との決着までの流れまでもこれまでの話の進め方としては早めでしたが、特に最後の大ボスという立ち居であるはずの『神』との戦い。タイトルと同名であり能力的最強を意味する『魔神相克者』と智春がなった以上、ラストまで加速するのは当然なのでしょうが、最後の難題として掲げられ燈と対決する要因でもあった『神』が数ページで打倒されていたのはどうなんでしょうか、と。「闇より暗き深遠より出し、科学の光が落とす影」という黒鉄召還の文言にマッチした戦法はお見事な幕引きでしたが、もう一手引っ張ってくれてもよかったような、と。ラストのアッサリ感は個人的には不満が残ります。「『神』って存在すると世界を非在化で崩壊させるから迷惑な存在だけど、結局、強いんだか弱いんだかよくわからんなぁ」という感じです。
総じてこの作品はラスト・エピソードとしては少々の駆け足感はありました。ですが智春と操緒と奏との関係に一応の結末を見せながらも3人の関係は崩壊することなく続いたり、少年モノらしく敵も味方も救われる展開になっていたり、かなり最初のほうから登場していた設定上の最強に智春がようやくなったり、これまで登場したキャラクターのほとんどが登場してみんなの協力で大掛かりな戦闘の決着がついたりと、痒いところに手が届く展開で壮大な物語のラストとしては十分以上にしっかりした内容だと思います。
冒頭で最終巻と書きましたが、一応後日談的なエピソードや番外編などを収録した続刊が出版予定ということで、物語はもうちょっとだけ続くんじゃよ、となっているようです。所謂、智春を主人公にした物語はこれまでだけど和葉を主人公にした話なんかはちょっと考えてるよ、ということなんですかね。奏と契約した智春が嵩月組のみなさんにどう扱われるのかとか、操緒と奏の間に挟まれて智春は普段どんな生活をしているんだろうかとかの妄想/空想的な部分から、智春の義妹である和葉が実は幽霊付き?っぽいようで彼女にはどんな話があるのかとか、そんな和葉の元にインストラクタを持ってきた奏の意図は?とか、奏が智春の彼女で『契約悪魔』だと知ったら和葉はどんな反応を見せるんだろうとか、最後の最後でまた気になる展開/設定開示もありましたので、その辺りも含めて続刊もまた待ち遠しいです。