ソードアートオンライン2

ソードアートオンライン2 アインクラッド

著者・川原礫先生。挿絵・abec先生。川原先生は第15回電撃文庫小説大賞で『大賞』を受賞した「アクセル・ワールド」の著者先生で「ソードアート・オンライン」はネット上で掲載されていて大人気を博した作品、その紙媒体作品です。
・登場人物
主人公はベータテスト時代からソードアート・オンライン(以下SAO)に関わっていて、過去に経験したある事件からギルドに所属することを嫌がり誰ともパーティも組まない片手剣士のソロプレイヤー、キリト。
ヒロインは料理上手で美人で高レベルプレイヤーという、SAOの世界ではアイドル的存在と化している細剣使いで、ギルド『血盟騎士団』の副団長、さらに二つ名として『閃光』とまで呼ばれるアスナ
今巻では各話でアスナ以外のヒロインが登場します。各話のヒロインは以下の通り。
『ビーストテイマー』という特殊ジョブで“使い魔”のピナと一緒に短剣を使って戦う13歳の少女、シリカ
『マスタースミス』という武器製作のスキルを持つ鍛冶屋店主でアスナの親友のリズベット
キリトとアスナが見つけて保護した記憶喪失で10歳くらいに見える少女、ユイ。
かつてキリトが所属していたギルド『月夜の黒猫団』のギルドメンバーで、『長槍使い』だがキリトに片手剣の使い方を指導してもらうことになっていたサチ。
・シナリオ
覧数650万PVオーバーを誇る驚異の小説第二弾!
クリアするまで脱出不可能のデスバトルMMOソードアート・オンライン」に接続した主人公・キリト。
最上階層を目指す≪攻略組≫の彼以外にも、様々な職業や考え方を持つプレイヤーがそこには存在していた。
彼らはログアウト不可能という苛烈な状況下でも、生き生きと暮らし、喜び笑い、そして時には泣いて、ただ≪ゲーム≫を楽しんでいた。
≪ビーストテイマー≫のシリカ、≪鍛冶屋≫の女店主・リズベット、謎の幼女・ユイ、そして黒い剣士が忘れることの出来ない少女・サチ──。
ソロプレイヤー・キリトが彼女たちと交わした、四つのエピソードを、今紐解く。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は所謂過去語り。第1巻でソードアート・オンライン(以下SAO)の世界をクリアするまでを書いて、この第2巻ではその合間合間にキリトが経験した色々な出来事が書かれている、と言う感じです。収録されているのは全4話で、それぞれ「黒の剣士 二〇二四年二月」「心の温度 二〇二四年六月」「朝霧の少女 二〇二四年十月」「赤鼻のトナカイ 二〇二三年十二月」となっています。各話には章タイトルに時系列も書かれていて、順に並べると「赤鼻のトナカイ」「黒の剣士」「心の温度」「朝霧の少女」の順になりますね。
では掲載順に感想と行きます。
「黒の剣士 二〇二四年二月」。これはキリトがある目的があって下層の階に降りてきたところで、ビーストテイマーのシリカが相棒である『フェザーリドラ』のピナを失うところに遭遇し、彼女がピナを蘇らせるのをキリトが手伝う、という流れで物語が進みます。キリトが当初の目的としていたことを達成するために実力を隠してシリカを手伝うという流れになっていて、MMORPGならでは、という形での『誰かを手伝う』という様子が見られました。また、キリトの現実世界での背景―――家族構成なんかも少し書かれるので、キリトを知るという意味でも色々明かされることのあった話でしたね。
「心の温度 二〇二四年六月」。これはキリトが新しい片手剣を探してアスナが薦める鍛冶屋にやってきて、そこで店主のリズベットと言い合いになり彼女と連れ立って素材集めから武器精製に挑む、というものです。アスナと親友のリズベットがキリトとのダンジョン・アタックを行うことで、アスナの想い人であると知らずにキリトに惚れていき、しかしすぐにアスナの想い人だと知ってキリトに想いを明かすことなく完結させながらも、自分の心に灯った火を消さずにそのまま抱えていく、という形になっていたのは『ヒロインの親友』という立場のリズベットでなければ描けない恋模様で、とても印象的でした。
「朝霧の少女 二〇二四年十月」。これは物語としては第1巻でキリトがアスナと結婚し、22層で新婚生活を送っていた間の数日で起きた出来事を記したものです。この話の中ではキリトがPCに強い、という一面も見られましたね。最後はやや強引な展開も見られましたが、理由付けもされていて御都合主義というわけではない納得できる展開ではあるので、その辺りは読み手の度量を試される展開かもしれません。しかし他の3話と比べると、ネットゲームというより少しオフラインゲーム的な展開だったかも、と思います。所謂「シナリオに沿った展開」というやつで、キリトやアスナでは絶対に勝てそうにない相手が登場し、それがイベント戦闘みたいにして決着がついてしまう、というものがあってちょっと残念でした。MMORPGを題材にしているのだから、その辺りも何とかキリトたちが実力で勝つ方法は無かっただろうか、と考えてしまいます。ユイの正体が明らかにならなければ話が終わらないので、仕方が無いといえば仕方が無いのでしょうが。ただこの話では記憶喪失のため、ユイに関して深く精神面で掘り下げた話が出来ない代わりに、アスナがSAOの世界に来て当初はどんな様子で過ごし、やがて『閃光』と呼ばれるハイレベル・プレイヤーとなったのかが語られていて、アスナというキャラを知る上ではなかなか重要な話になっていましたね。
「赤鼻のトナカイ 二〇二三年十二月」。これはキリトが1巻でアスナ相手に話した、ソロにこだわる理由である、誰かとPTを組むことを特に忌避する原因となった出来事を書きながら、キリトがその出来事から開放されようと自暴自棄な行動をしていた頃の事を書いています。長槍使いの少女サチ。彼女に言った言葉を守れなかった、彼女を守れなかった自分を責めるキリトが、無謀なまでのレベル上げを行いさらにボスモンスターにソロで挑むという無茶をして、その果てに得るものとは―――という感じです。
総じて今巻は、各話に用意されたヒロインたちがキリトにそれぞれに想いを積み重ねていく様子、或いはどれだけの想いを積み重ねていたかが書かれるという展開が多い恋模様的なものが表層的には目立つ話が多かったです。しかしその裏ではSAOという世界で生きる人たちがどんな背景を背負っているか、や、どんな気持ちでそれぞれの職業―――生き方をしているか、それまでの自分の行き方とSAOの世界での生き方を比べてみて「生きる」って意味を実感したりとかしていて、人生観とか色々と語られてあっさりとした文章の中に深みがあります。この、明るい話やバトルシーンなどの派手な印象の中にそれぞれのキャラクターが持つ考えがしっかり書かれているのがこの作品の魅力かと思います。
若干ネットゲーム用の単語が何の説明も無く使われていたりして、ネットゲームに親しくない人には不親切な文章かな、とも思いますが、その辺りは英語力の問題でもありますので問題というほどではないかと。
そして次巻、「ソードアート・オンライン3 フェアリ・ダンス」ではいよいよ舞台は現実世界になるそうで、SAOの世界がクリアされゲームシステムも崩壊している状況でどんなSAOの世界が語られるのか、期待が膨れ上がります。あとがきによると発売は今年冬予定、とのことで今までのペースで行くなら10月10日に「アクセル・ワールド3」が出て、「ソードアート・オンライン3 フェアリィ・ダンス」は早くて12月。待ち遠しいですねー。