疾走れ、撃て!2

疾走(はし)れ、撃て!〈2〉 (MF文庫J)

疾走(はし)れ、撃て!〈2〉 (MF文庫J)

疾走れ、撃て!

著者・神野オキナ先生。挿絵・refeia先生。神野先生は同レーベルで人気シリーズ「あそびにいくヨ!」シリーズを書かれていて、デビュー作はファミ通文庫の「闇色の戦天使」。近作では「ぷりんせす・そーど!」シリーズなどが記憶に新しい精力的に活動されている作家先生の1人ですね。refeia先生は名前が違いますが、同レーベルで「モノケロスの魔杖は穿つ」シリーズの挿絵を描かれていた人です。
・登場人物
主人公は中学を卒業したばかりのやや鈍感少年、田神理宇。ヒロインは銀髪幼児体型な無口キャラ魔導士官少佐、紫神虎紅。もう1人のヒロインは金髪碧眼巨乳な眼鏡少女だけどがらっぱちな口調で話す理宇の同期生で中学時代の友人でもある、華社ミヅキ。
サブキャラクターは、ミヅキの友人で同期生、鳥越深冬。理宇の中学時代の同級生で寡黙な少年の佐武俊太郎。虎紅の使い魔である子犬の姿をしたジンジュウロウ。同期生で理宇、ミヅキたちと同じ隊に配属になるが初めは理宇を敵視している優等生の五巳鷹乃。
さらにサブのキャラクターとして、理宇やミヅキたちをシゴいた訓練期間の監督役、伊達教官。虎紅の同期生で同じ魔導仕官の内藤時雨。時雨の『杖』である台下柳太郎。他にも同じ隊のメンバーや同期生などが色々と登場しますが、ざっといってこんな所でしょうか。
・シナリオ
魔導士官・柴神虎紅が率いる小隊に配属された田神理宇や華社ミヅキたち。なし崩し的に突入した最初の実戦をクリアしたものの、日常に戻れば普通の学生兵士――通称「学兵」として、相も変わらず厳しい訓練の日々を送っていた。そんな中上司と部下として親密度を増していく(ように見える)虎紅と理宇。その様子を見て焦りだしたミヅキは、理宇に対してアプローチをしていくが、さらに虎紅が対抗して理宇に接してくる。しかし、辛くも楽しい毎日を過ごす理宇たちを取り巻く環境は淡い想いを育てる余裕もなく動き出して――。新感覚アクションストーリー第2弾!(MF文庫JOHPより抜粋。)
・感想
巨人兵器「ダイダラ」と呼ばれる異世界からの侵略者たちと地球全土で戦う世界で、兵役につくことになった少年少女たちが、戦場で繰り広げる生死をかけた戦いや、訓練所での生き残るための日々の努力などの姿が描かれる中、年相応の恋模様も繰り広げられるドシリアスな架空戦記作品、その第2段です。
前巻は訓練から特殊な技能を持つ上級士官・虎紅に適正を見出されて徴用され、さらに初の実戦となるまでが描かれましたが、今巻では実戦はなく、終始訓練の様子で物語は進みます。
「優」判定なら最長で14日間の休暇、最悪なら休暇無しの再訓練、という条件で繰り広げられる長期休暇がかかった演習。その演習に挑むまでに隊長の理宇は虎紅を乗せる多脚戦車の操縦訓練に必死になり、副隊長のミヅキが部隊全体の統率を取るために訓練で怒鳴り、ミヅキの怒声が響く訓練に嫌気を感じた隊員たちはミヅキへの不満が高まります。そんな演習に向けて東奔西走する様子がこの2巻では主に語られていましたね。無論それだけではなく、理宇を頂点としたミヅキと虎紅の三角関係的なものも互いに牽制しあいながらの展開があります。
部隊の訓練のために理宇とはなかなか時間がとれず、なのにライバルの虎紅は理宇と同じ多脚戦車での訓練でいつも一緒にいる。食事などで理宇と虎紅と一緒になっても、ミヅキは虎紅に一歩リードを許してしまう。そんな中でのミヅキの焦りややきもち的な感情が、演習前のぴりぴりしている空気とあいまって効果的に演出されていましたね。恋と演習、どちらも失敗できない大事を前にミヅキの必死さが色々と伝わってくるような展開が多かったです。
対して虎紅は、前述したミヅキとの恋のやりあいで今巻では一歩リード、というところです。上官であるということとミヅキや理宇より年上ということ、2つの点で見事に立ち回り、嫌味なくヒロインとしてミヅキよりうまく立ち回っていた、という印象でした。かと思えば体型的なところで悩んだしていて、普通の女性、という見せ方も上手くて、理宇との距離を縮めるという点で正々堂々とミヅキを相手にして勝って行って、尚且つヒロインとしての魅力も見せていった、という感じでした。こういう場合の勝者はどこか悪印象を覚えやすいのですが、今巻での虎紅の立ち回りなども含めて「虎紅の実力勝ちだな!」と納得できる展開でした。
物語の展開に関しては、今巻は演習とそのための訓練で終始していましたが、これも『軍』という世界のシビアさや腹黒さ、表と裏と両方がある、清濁併せ呑まなければ生きていけない、という世界観をよく演出していて引き込まれます。
総じて今巻は、ひとつの結果には裏に二重三重の思惑が隠れていて、意図することなくその結果に落ち着いたように見えても実際は何者かの意思が介在していた―――というような、見えない部分で働く思惑、というものが面白かったですね。これは次巻以降への展開の伏線にもなっていて、理宇や虎紅たちがどうなるのかというラストの引きにも繋がっていて、続きが気になる見事な読ませ方でした。