神曲奏界ポリフォニカ ダン・サエリエル2

神曲奏界ポリフォニカ ダン・サリエルとイドラの魔術師 (GA文庫)

神曲奏界ポリフォニカ ダン・サリエルとイドラの魔術師 (GA文庫)

神曲奏界ポリフォニカ ダン・サリエルとイドラの魔術師

著者・あざの耕平先生。挿絵・カズアキ先生。あざの先生は富士見ファンタジア文庫レーベルでの「BLACK BLOOD BROTERS」シリーズで有名ですね。編集部では『銀』シリーズと呼ばれる様になったポリフォニカ作品の、第2作目です。
・登場人物
主人公であり、数多くのファンを持つ今をときめく天才音楽家にして神曲楽士、唯我独尊的な性格で契約精霊であるモモを雑に扱ったりするが、本当に音楽を愛していてとても繊細な心をもつダン・サリエル
愛らしい少女の容姿を持ちメイド服姿で甲斐甲斐しくサリエルの世話を焼くが、サリエルからは今ひとつキビシク且つ冷たく当たられてしまうサリエルの契約精霊であるフヌマビック(人間型)の中級精霊、モモ・パルミラファルスタッフ
かなりの腕前を持ち並みの神曲楽士以上の音楽の才を持つが、極端なほど重度のあがり症で人前では演奏できないという欠点を持つ、<七楽門>のひとつであるキーラ家の令嬢、キーラ・アマディア。
アマディアの才能に惚れこみ、彼女が神曲を演奏できるようになるまで待つと公言しサリエルからの精霊契約の申し出も断った、虎の姿を持つベルスト(獣型)の上級精霊、コジ・クロエ・フィガロ。メインキャラクターはこの4人、というところで。
今巻で登場するのは、第3神曲公社神曲楽士管理部で、神曲楽士としてのサリエルの担当をしている性格の裏表の激しいオニヅカ・マーガレット。アマディアの旧友で、最近にオーディションで新人賞を受賞してデビューしたが言われるままに振舞っての受賞であったので、そんな自分に疑問を持って所属プロダクションを出奔したアサナミ・リジア。リジアが所属するプロダクションの社長でサリエルの旧知でもある、敏腕プロデューサーのハセ・シャルマ。
・シナリオ
新人音楽家はアマディアの幼馴染みだった
あがり症が克服できず、人まえで演奏できないでいるアマディア。そんな彼女が久しぶりに再会した幼馴染みは、なんと新人音楽家として、華々しくデビューを飾っていた。焦り、嫉妬を覚えるアマディアだったが、幼馴染みの少女は意外なことを口にしたのだが…。
現状を抜け出せないでいる自分とは違い、きらびやかなステージに立った幼馴染みの少女リジアに、アマディアは嫉妬と羨望を覚えていた。
しかし、ひょんなことから再会した本人は、意外にも現状に満足しておらず「自分の音楽」を目指したいのだという。そんな彼女を事務所に招待するサリエル
だが、彼女をプロデュースしているのは、なんとサリエルのかつての相棒、「イドラの魔術師」と称されるハセ・シャルマだったのだ!
表題作『ダン・サリエルとイドラの魔術師』の他、忙しくも愉快なサリエルやモモ、コジ、そしてアマディアたちの日常を描いた作品等、全4作を収録! (Amazon商品紹介ページより抜粋。)
・感想
シェアード・ワールドポリフォニカ』シリーズの、通称『銀』シリーズの第2作目。今巻も前巻同様に短編連作という形を取っています。内容はサリエルの一番弟子を自称し押しかけ弟子となっているキーラ・アマディアを中心にして話を進め、その中でサリエルの過去や普段の姿などがちらほらと書かれる、というものです。
収録されているのは全4話。「第1話 ダン・サリエルと七つの仕事」「第2話 ダン・サリエルと日溜まりの決闘」「第3話 ダン・サリエルとイドラの魔術師」「第4話 キーラ・アマディアのささやかな一歩」。このうち第1話と第2話はサリエルを主役としつつ他のメンバーも見せ所、活躍のあるダン・サリエル事務所の日常風景、あるいは仕事風景、という感じになっています。第3話は表題作にして今回の作品の中で最も重く、意味深な作品となっています。メインはアマディアによる視点。彼女が昔の知り合い―――リジアと再開し、彼女と自分を比較して色々思い悩むがそれは彼女だけではなかった、という話。第4話はその後日談というか、第3話から繋がる物語で第3話で色々言っていた人たちが何を思っていたのか、ということをバラすという感じになっています。
第1話「ダン・サリエルと七つの仕事」は、第1巻のダイジェスト版というか第1巻の内容の浅いところだけをひっさらって纏めたらこんな感じ、というダン・サリエルシリーズの大まかな雰囲気を掴むのに最適な作品でした。サリエルの日常生活の忙しさやモモの苦労振り、アマディアやコジがサリエルたちとどんな関係にあるのか、などがわかりやすいです。としつつ、第1巻で出来た変化もちょっと混ぜたりして、ただのストーリーダイジェストで終わらせていない、復習と新しい作品としての楽しみもある見事な1作です。
第2話「ダン・サリエルと日溜まりの決闘」。こちらは完全なコメディ作品で、音楽家神曲楽士、というサリエルの肩書きを忘れない神曲楽士としてのサリエルの活躍が書かれる話です。同時にサリエルが意外と意固地だということや、神曲楽士としてのサリエルの力量なども見られます。
第3話「ダン・サリエルとイドラの魔術師」。本作の表題作でもあり、同時に内容的に最高に難度の高い作品です。音楽に関するスタンスや悩みなどの『音楽とは』というような深い深いテーマを、アマディアを中心に描いています。これはまだ新米同然のアマディアを中心にすることで、読者と登場人物の知識量、音楽に関する接し方で差を作らないプレーンな状態で他の音楽家たち―――サリエルやシャルマ、リジアの音楽観に触れ、様々な考え方、音楽観があることに触れて欲しい的な意図があるかな、と思いました。
第4話はそんな第3話の補足、という感じになっています。第3話でサリエルがリジアに対して取った行動、シャルマがリジアに対して接する態度の理由、リジアが第3話の後、どういう選択をしてどういう現在にあるか、などが語られます。第3話の補足でもあり、同時にそれ単体でも物語としても独立している、という話でした。
総じて、この『ダン・サリエル』シリーズ作品は、紅や黒などの他のポリフォニカ作品を比べてやや異色気味です。神曲と精霊による交歓とか、精霊を用いた不可能犯罪を解き明かすなどの、見た目にわかりやすい特色は無いです。ですが、この作品では神曲と限定せずに『音楽』というもの『そのもの』に対して色々な形で考えが述べられていて、そこが目を引くと思いました。この作品を読み終えた後は、サリエルの、アマディアの、リジアの音楽と、シャルマの考える音楽と、大衆の好む近代的な音楽、一部の人たちが好む古参の音楽、或いはその逆など、それら全ては同じ音楽。しかし同じ音楽でありながら、それらはまったく別々の音楽で、そして世間が求めるもの、求めに足り得る音楽は、極限られた音楽だけなんだな―――と、思わざるを得なかったです。音楽の世界の厳しさ、弱肉強食の世界が描かれていて、すごく衝撃的でした。