血吸村へようこそ

血吸村へようこそ (電撃文庫)

血吸村へようこそ (電撃文庫)

血吸村へようこそ

著者・阿智太郎先生。挿絵・あらきかなお先生。阿智先生は今は無き第4回電撃ゲーム文庫大賞で『銀賞』を受賞した作家先生で、同レーベルから前述した『銀賞』受賞作である「僕の血を吸わないで」シリーズ、「僕にお月様を見せないで」シリーズ、「いつもどこでも忍ニンジャ」シリーズ、「骸骨ナイフでジャンプ」シリーズ、他レーベルからはアニメ化もされたMF文庫J陰からマモル!」シリーズなどを出されています。挿絵のあらきかなお先生は電撃大王で「フタコイ オルタナティブ」「乙女はお姉さまに恋してる」のコミック版などを連載されていました。
・登場人物
主人公で普通の高校2年生、高村直樹。直樹の後輩で下級生、料理上手で元気で陽気な高校1年生の女の子、鳩羽エリ子。直樹の同級生で演劇部所属、ちょっと影のある川澄季代実。直樹の同級生で陸上部に所属するボーイッシュな利根崎智衣。とってもタカビーな生徒会長で村の旧家でもある神楽家のお嬢様、神楽紅華。生徒会書記でたれ目にメガネを掛け、思わず目がいくほど胸が大きな沢田綾菜。メインは以上五人。その他に舞台となる村に住む村人などのサブキャラクターが登場します。
・シナリオ
「一緒にお祭りに行って」とか言われて喜んでました。「浴衣姿を見てほしい」って言われてニヤケてました。「高村君は私のものよ」なんて言われて叫びそうになってました…。たしかにみんな可愛い女の子です。だけどね…だけどね…みんな吸血鬼なんですよ〜!—ご気楽な父・直太郎の勝手な都合により、長野の僻地・治水村へと引っ越してきた直樹十六歳。転校した高校での思わぬモテモテぶりに、青少年心をときめかせていたのだが…。幸せは不幸な物語の始まりか!?はたまた実は…!?阿智太郎あらきかなおのコンビで贈る、イタイケナ男の子たちへの応援歌。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は『電撃文庫MAGAZINE増刊 とらドラ!VS禁書目録』に掲載されていた短編作品の一新、文庫化作品ですね。文庫化といっても、増刊に掲載された作品とは内容も結末も変わる一新した作品となっているそうで、増刊で読んだ人もまた新しく楽しめる作品となっているようです。
内容については阿智太郎先生の基本に戻った作品、という感じですね。デビュー作が吸血鬼ラブコメディだった阿智先生。その基本を踏襲しながらまた新しく吸血鬼モノを、しかしヒロインを一人に絞らずにハーレムものっぽくしたらこの作品が出来た、という印象です。普通の少年が吸血鬼であるヒロインたちに振り回される、というのが基本ですがその中にちょっと良い話を混ぜたりヒロインたちの胸がきゅんとするようなカッコ良い、でもちょっと情けなくて親近感が湧く…そんな展開が挟まれながら、短編形式でストーリーが進みます。
収録されている話は物語のプロローグ、都会から田舎の治水村に着たばかりの直樹が村に住むことを本当の意味で決心する導入部分と、ヒロインの一人のボーイッシュ少女、利根崎智衣に関する話です。導入部分での話は吸血鬼パニックモノっぽくしながらも阿智先生のお家芸であるお笑いとご都合主義が、物語をお約束な展開へともって行きます。智衣の話は、見た目と実年齢が違う、という設定を活かして智衣の精神面の不安定を見せて吸血鬼特有の悩みとそれを解決するために奔走する直樹の姿を書いていました。その直樹の奔走に、村の新参者として来たばかりの直樹に対する智衣の感情はあくまで興味本位優先だったのが、別の感情に変化するところを書いた話でもありましたね。
総じてこの作品は、阿智先生の基本に戻りながらもデビューしてから積み上げてきた実績や経験を活かして、基本に戻りながらも新しい作品としての面白みがある、という作品を目指している作品という印象を受けました。