黒姫のユズハ

黒姫のユズハ (MF文庫J)

黒姫のユズハ (MF文庫J)

黒姫のユズハ

著者・田口一先生。挿絵・をん先生。著者の田口先生は第3回MF文庫Jライトノベル新人賞で佳作を受賞した「魔女ルミカの赤い糸」シリーズを1〜4巻で刊行されています。挿絵のをん先生はこの作品が挿絵初作品、ということです。
・登場人物
主人公は特殊な文様を刻むことで様々な能力を発揮する文様装飾の使い手を目指して養成所に通う、親元を離れて海辺の小屋で一人暮らしを営むレン・リーンバート。ヒロインは嵐の夜にレンの前に現れた黒衣の少女で、少々子供っぽい純真さを持つが傲慢な性格で負けず嫌いな一面も見せる、レンの小屋に居候をすることになるユズハ。
サブキャラクターは、レンの幼馴染で文様学校の成績は優秀な世話焼き少女のマルシェ・ノールス。レン達より1つ下の学年に在籍する、文様装飾師になるための素養はないが代わりに学者になろうとしているルミサ・ラグラート。飄々とした性格だがユズハの正体を知っており、レンたちが彼女を悪用しようとしていないか疑っているザイクス・シン。レンの兄で数十年に一人の天才と呼ばれる文様師で、若くしてギルドの議員でもありレンが引け目を感じる対象でもあるノイド・リーンバート。
他、レンのバイト先の親方やギルドの議長、秘書など色々です。
・シナリオ
特殊な文様を施すことでさまざまな現象を引き起こすことのできる「文様装飾」の力で満たされた世界。文様師を目指すレンは、ある嵐の日、海岸で古びた棺を見つける。レンは古い文様の装飾されたその棺が古代文様の勉強になるかもしれないと家に持ち帰るが、棺の汚れを落としたレンの目の前で、その棺が少女の姿に変化する!!ユズハと名乗るこの少女は、もしや、この世界を作ったと言い伝えられる姫たちの一人なのか—?レンとユズハは、妖しく展開する文様の運命に踊らされる!鮮烈な異世界ファンタジーの幕がいま開かれる。(7&YHP紹介文より抜粋。)
・感想
この作品は最近のライトノベルでは珍しい、設定からきっちり作りこまれた正統派ファンタジー小説のひとつですね。
物体に文様を刻むことで、その文様に込められた意味を実際に発現させるという『文様装飾師』。そんな存在が世界に生み出されてきた理由を、世界設定ともいうべきその世界の『天地創造神話』を簡潔に纏めて語ることで物語上で認識させてストーリーに絡めていました。うっかりすると長々と読んでいくことになりダレてしまうような手法を、しかし語る部分を限定しながら短いページに纏めて最初にざっと語らせ、その後の展開で補足を加えながら知らせていくと言う形式を取ることで長い物語がすんなりと頭に入るようにしてある手法は見事なものでした。
物語の根幹としては、行き詰まっている主人公と人に言えない悩みを抱えるヒロインが出会うことで、主人公に新しい道が開け同時にヒロインの悩みを救うという、主人公とヒロインが互いに救い救われる話、という感じですね。
物語事態の展開としては、かなり王道展開が多いです。わかりやすい黒幕、明らかな捨て駒、やっぱりかと思うようなお助けキャラ、だと思いましたなヒロインの秘密と、とても基本に忠実です。ですがその中で、ちょっとしたことで意表をつく展開もありなかなか飽きません。そして主人公のレンも、文様師としての力量や偉大な兄と言う見えやす過ぎる壁に悩み、状況の打破のために模索した過程で得た剣術も話の展開でうまく活きていてと、精神面も肉体面も共に見せ場も多く、他のキャラクターに負けない主人公らしさを見せていました。ヒロインなどに見せ場を取られ、決断するところで決断の出来ない影が薄いただの巻き込まれヘタレ主人公の多い昨今、ギルドへ兄の告発を行おうとしたりと、行動を取るべきところで取るという、自分の意思をしっかり表す主人公はある意味で貴重ですね。
総じて、この作品は正統派ファンタジー小説で、世界設定も1巻で一気に語りながらもそれを無理なく読者に理解してもらおうとする気配りもあり、また話の展開も王道的なものが多くて比較的オリジナル設定から始まる物語としては読みやすい作品だと思います。