俺の妹がこんなに可愛いわけがない

俺の妹がこんなに可愛いわけがない

著者・伏見つかさ先生。挿絵・かんざきひろ先生。伏見先生は同レーベルから「十三番目のアリス」シリーズを出されています。他のレーベルでもVA文庫「名探偵失格な彼女」などを出されています。挿絵のかんざきひろ先生は、アニメーター兼イラストレーターでアニメ関係の近作では「二十面相の娘」OP&ED原画、「バンブーブレード」の作画監督などをされていたそうです。
・登場人物
主人公で高坂家の長男、極々普通の一般人で、妹と冷戦状態と言う以外は特に特徴と言える特長もないが誰かに何かあった時には口悪くもお節介なほどに相手に関わろうとする高坂京介。ヒロイン的立場の女性キャラで京介の実の妹だが、京介とは冷戦状態で滅多に関わりも言葉を交わそうともしない美人系で陸上部の期待も厚い万能中学生だが、ドSで実はヲタク趣味と言う高坂桐乃
京介の幼馴染で京介曰く「おかん」な性格をしている京介の同級生、田村真奈美。桐乃が参加したオフ会で知り合うゴスロリ姿で毒舌家のハンドルネーム“黒猫”。桐乃、黒猫が参加していたコミュニティ『オタクっ娘あつまれー』の主催者で、こてこてのオタク姿で自分をキャラ作りするハンドルネーム“沙織・バジーナ”。
・シナリオ
俺の妹・高坂桐乃は、茶髪にピアスのいわゆるイマドキの女子中学生で、身内の俺が言うのもなんだが、かなりの美人ときたもんだ。けれど、コイツは兄の俺を平気で見下してくるし、俺もそんな態度が気にくわないので、ここ数年まともに口なんか交わしちゃいない。よく男友達からは羨ましがられるが、キレイな妹がいても、いいことなんて一つもないと声を大にして言いたいね(少なくとも俺にとっては)!だが俺はある日、妹の秘密に関わる超特大の地雷を踏んでしまう。まさかあの妹から“人生相談”をされる羽目になるとは—。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品はぶっちゃけて言ってしまうと、同レーベルの人気シリーズである「乃木坂春香の秘密」一般人版、とでもいうべき設定での話です。超お嬢様だけど隠れヲタクなヒロインが主人公とらぶらぶする―――穿って言うとそれが「乃木坂春香の秘密」。この作品は同じような設定ですが、各キャラクターの背景や細かな設定が違う作品、というわけです。
ヒロインが一般家庭出身のドSな性格ではあるがカリスマ美少女モデル兼陸上部のエースで成績も優秀と言う才色兼備を地で行くが、実は隠れヲタクでその趣味がバレるのを忌避しているという妹。主人公はそんな妹を持つ兄で特に趣味もなく平々凡々な性格をした学生で、ある日妹の趣味を知って妹から色々相談を受けるようになる、ということ。これだけ見ても「乃木坂春香の秘密」との共通点が色々見えてきます。一般的に「優秀」とされる少女がオタク趣味を隠し持ち、それを明かされることがないように隠していると言うこと。主人公がオタク趣味に対して偏見を持っているわけではなく、しかしあまり詳しくなくそれゆえにヒロインとの距離を縮めていくということなど。下地的設定は「乃木坂春香の秘密」の焼き直しにも見えますね。
しかし…しかし!この作品の魅力は、そんな二番煎じ的な印象を圧倒的に払拭し先入観や偏見を蹂躙するかのように塗り替えていきます。
その際たるところは、やはりヒロインのキャラクターでしょう。「乃木坂春香の秘密」ヒロインである乃木坂春香が非現実的なまでのお嬢様であるというファンタジーな設定の対極を為すように、この作品のヒロインである高坂桐乃は、一般家庭出身な上に兄がいて実際に美人の妹がいるという兄妹ならばこんな感じの性格と兄妹間の関係になるというのも理解できる、思春期特有の男性蔑視(性的な意味で)の入った、兄にはどこまでも毒舌で兄妹の関係でなければ京介とは一切の関わりを持たないであろう可愛げのない性格。そんなかなりリアルな「妹」として書かれています。しかしながらオタク趣味でありそれまで隠してきたその趣味を明るみに出せる/出せそうな場所にあっては饒舌になって、傍から見ていても「仲間が欲しい」オーラを感じられるも自分からはなかなか上手く歩み寄れないなどの内向的な一面も見せたりと、高坂桐乃というキャラクターの魅力については書ききれない程の「可愛らしさ」を感じられます。
また主人公であり語り部でもある高坂京介に関しては、一見無気力系ですがその実態は大事な人のためなら灼熱に熱くなれる主人公体質な、「主人公」という存在はかくあるべし、という読者と一体化しやすい性格でした。そして色々と桐乃に暴言を吐かれても妹の人生相談に協力する律儀さと表には見せない「妹を大事にする」ということが普通にできる良いお兄ちゃんだなぁ、とも思いました。
内容的なものは、誰にも知られず(家族にも主人公にも)にこれまでオタクを続けてきた妹が、うっかりから主人公である兄にオタク趣味がばれる。兄にばれたことから兄を自分がしようとすることに強引に協力させ、自分のオタク趣味を認めてくれる仲間を求め、その交流に兄を関わらせる、という部分とその後のひと騒動―――厳格な父親にオタク趣味がバレてしまい、そのことで塞ぎ込む妹を兄である京介が助けるなどの顛末が書かれています。インパクトのあるキャラクターによる、オタクとオタクとの交流や、オタクが世間の目と対決する模様などが見られる…そんな作品ですかね。
総じてこの作品は、素直じゃない桐乃の態度と言動、京介の斜に構えながら何事にも真摯に向かい合うというスタンスの兄と妹の、リアルな兄妹関係が楽しめる。そんな作品でしたねー。