シャムロック9

シャムロック 幻惑のデュエリストですぅ〜

著者・沢上水也先生。挿絵・西脇ゆぅり先生による、GA文庫創刊時に刊行された作品の1つです。沢上先生は他作品として徳間デュアル文庫から「舞−乙HiME列伝」などの作品を出されていますね。挿絵の西脇先生はPCゲームの「きると」が代表作です。
・登場人物
美少年だが常識知らずのマッドサイエンティスト久我原桂一。そんな桂一に心酔してついて行く、天然の性格をした元茶道部部長現世界征服研究会未来警察同好会有限会社シャムロック・カウンシル社長という肩書きが色々と変わる通称”白メイド”の漣恋歌。十六夜学院生徒会の生徒会長の正義を追求する少し単純な突撃少女、通称”赤メイド”中瀬古舞。同生徒会副会長の舞に心酔し彼女をサポートする事に全力を傾ける長刀術などの武芸を修めたお嬢様の通称”青メイド”こと藤堂乱菊。コスプレオタク美少女の通称”黒メイド”東雲クリス。第1巻の事件に巻き込まれた結果、シャムロックに協力する立場になった図書館司書の氷取沢香澄。第2巻から登場の洗脳説得メガホンという道具を使い相手の精神に訴えかける話術を得意とするシャムロックの対外交渉人(ネゴシエーター)の、”偽シスター”こと簗瀬理佳。そしてその弟で熱血ヒーローやロボット好きが高じてシャムロックに入った”下っ端”こと簗瀬浩樹。そして敵か味方か。巨大企業ハリントンの戦略研究室”ヘッドクウォーター”の謎の女、その正体はAIというロウヒ。
この巻では新たな敵役として、コヴェントリー財閥の当主、アーサー・コムウッドが登場します。
・シナリオ
「私は君たちと『はないちもんめ』をやりたいんだよ。私が勝ったら、一人ずつ私の物になってもらおう」不敵な笑みを浮かべ、桂一に宣言するコヴェントリー財閥当主アーサー・コムウッド。なんて、なんて恐ろしい男だろう。この男が抱える底知れぬ闇に理佳は戦慄した。このままでは、本当にシャムロックが…。その時、舞が決意を込めて言う。「そう、そういうことだったのね。乱菊は私の気持ちを気遣って、ずっと言い出せなかったのね…私、乱菊久我原君のことを祝福するわ!」え、あの、舞さん、今はそれどころじゃな…いろんな意味で急転直下のシリーズ第8弾。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この巻は前巻までの話から一変して、新しい敵の登場と展開という話になります。
PP事業そのものを狙い、ニチケイ、チキンポリス、シャムロックなどを初めとする大多数のPPの運営件取得に乗り出すコヴェントリー財閥当主、アーサー・コムウッド。彼の謀略に久我原桂一―――シャムロックの面々が相対する、ということの前哨戦が今回の話です。
財力による根回しと正規の手続きを踏んだ法律の改正という、正統派の策で両面からPP事業を乗っ取りにかかるアーサー。対するシャムロック側も今回は非正規な方法ではなく、過去の条例を参考にして改正された法律の矛盾点を見つけ出したりなどの、両者正統派の方法による激突が主でした。これまでのシャムロック・シリーズであったような法律の裏をかくような隙間を狙い撃ちするような謀略ではなく、財力が背景にあるとは言え正々堂々とした乗っ取りという、傲岸不遜さが今回の敵であるアーサーの悪としての魅力、となっていました。しかもそれだけではなく、アーサー個人の力量も弁舌で洗脳シスター・簗瀬理佳と正面切れるだけのものがあったり、シャムロックとの直接対決では久我原桂一を含むシャムロックの面々を手玉に取る悪知恵を見せたりと、過去の敵役と比較しても最強クラスじゃないでしょうか。
そしてそれだけの悪党であるがゆえに、今巻ラストの衝撃の展開も納得してしまいます。シャムロックの表向きの代表にして社長である漣恋歌とアーサーの対決の顛末。桂一に対する恋歌の恋心を逆手に取った卑怯な策は、まさに恋歌だからこそ有効な策。他の面々―――乱菊、舞、クリスたちならその効果のほどはわからなかっただろうと作中でも語られており、それだけ効果的な策をピンポイントで行使できるというのはアーサーの判断力と分析力の高さを見せ付けていましたね。
ヒロインたちの動きは、漣恋歌ひとりにスポットが当たっている感じで他のヒロインたちの動きは若干弱いです。以前の巻での見合い騒動で桂一との関係で両親との間に誤解を生じた乱菊や、アーサーに弁舌戦でプレッシャーに圧倒される形になった理佳などはまだ若干スポットを浴びていましたが、クリスや舞などは今回はチョイ役、という感じでこれという活躍が無かったかと思います。
総じてこの巻は、新しくも強力な敵の登場に再びシャムロックが敗北する巻です。つまり後の巻の為の布石の巻という事で、この巻単体では事件解決しておらず、少々フラストレーションが溜まる展開ですね。