私立!三十三間堂学院8

私立!三十三間堂学院〈8〉 (電撃文庫)

私立!三十三間堂学院〈8〉 (電撃文庫)

私立!三十三間堂学院

天国に涙はいらない」などの著作を持つ第7回電撃ゲーム小説大賞「金賞」受賞作家の佐藤ケイ先生、挿絵はかみやまねき先生によるシリーズの第8巻。今巻は長編です。
・登場人物
お嬢様で女子生徒ばかりの三十三間堂学院の共学化に先駆け、1人だけ受け入れる事になった男子生徒。その男子生徒こと「後白河法行」を主人公に、様々な女生徒たちとの交流を書かれるシリーズ。それがこの「私立!三十三間堂学院」です。
この巻で登場&スポットを浴びるのは外からの転入生の1年生、転校前の学校では女の身で並み居る不良たちを従え、『番長』として君臨していたが、三十三間堂学院に転入してからは心機一転、お嬢様として過ごそうとする夢見る乙女の「鳳かるら」です。
・シナリオ
生徒会四天王の西村千秋です。ウチのクラスに鳳かるらさんという転入生がやってきたんですけど、これが見た目も態度もいつの時代の少女漫画からいらしたんですかって感じのコテコテなお嬢様っぷりで、しかも私は気に入られてしまったらしく、ことあるごとに過剰なスキンシップを…。困ります、私たち女同士なのに…。そんなある日、東校舎二年の長柄さんに「後白河法行に近づくな」なんて脅迫状が届いて、生徒会の調査で容疑者として浮かび上がったのは何と鳳かるらさん!?でも、そんなのあり得ません!だってあの人は私の事が…。佐藤ケイが贈る大人気学園群雄戦略ラブコメ、第8弾。(7&YHPより抜粋。)
・感想
前巻は短編集という形式でしたが、この巻は再び登場人物の1人に焦点を絞って、そのキャラを追いかけ続けるような形での話となっています。
今巻は新登場の鳳かるらがメインキャラ。元・番長で今は家のため、三十三間堂学院で本当の『乙女』に、『大和撫子』になるべく、少女漫画などで女の子というものを勉強してきて三十三間堂学院の本当の良家の子女達の中へと入っていく転入生―――という女生徒です。しかし、付け焼刃の乙女であるかるらは色々な勘違いを起こしてしまい、それはクラスメートや女子寮の面々、さらには生徒会まで巻き込んでしまい大騒動になってしまう―――という展開になります。
そんな訳でこの巻は、男性的思考で考えてしまうかるらが、女性であるクラスメートたちなどの行動を誤解してしまう―――というものが全ての元凶となり、また騒動の発端となっていました。その男性的思考と女性的思考の比較が面白かったです。女の子の考え方などに、女性でありながら男性的思考で接してしまうかるらというのは、元から男性である法行が男性的思考で女性に接する―――というのとは違い、中性的、と言ってもいいのでしょうかね?かるらと相手の女性という女性2人でありながらも、男性と女性という両方の性質を持つ存在がいるようにも感じられ、どこか百合的な印象でした。
誤解などから周囲を騙し続けることになったかるら。そんなかるらが誤解とそれを解く事が出来ない状況からドンドンと追い詰められていき、自力で何とかしようと、自分を気にかけてくれる人たちから遠ざかり決別した筈のかつての自分―――番長だった自分を持ち出してまで抗う。そんな彼女の意固地さと、そうして1人で頑張ろうとするかるらを見ているうちに全てを悟った奈良園健子、近藤美沙の2人の取る行動は、厚い女の友情と後輩であり寮の同室であるかるらを思う年長者としての愛情を感じさせられますね。
総じてこの巻は、誤解を解きそこなった事で秘密を持ってしまった鳳かるらがその秘密を守る為に様々な苦難に見舞われてしまうも、それを乗り越えて本当に信頼できる相手とめぐり合う―――そんな、生涯の友人を鳳かるらが得るまでの話でした。
ただまぁ、そんな女の友情的な所が中心の話ですので、主人公である筈と言うか紅の中の黒一点である後白河法行は完全サブキャラクター扱いで、影が薄かったのが残念ではありました。