烙印の紋章2

烙印の紋章2 陰謀の都を竜は駆ける

著者・杉原智則先生。挿絵・3先生。杉原先生は電撃文庫レーベルで『殿様気分でHAPPY!』シリーズや『レギオン』シリーズ。『ワーズワースの放課後』シリーズ、『頭蓋骨のホーリーグレイル』シリーズ、『熱砂のレクイエム』シリーズなどを著作に持たれています。別レーベルではスニーカー文庫で『てのひらのエネミー』シリーズ、『交響詩篇エウレカセブン』のノベライズ作品などを書かれていますね。
・登場人物
主人公で、メフィウスの皇太子ギル・メフィウスと同じ顔を持つがゆえに、鉄の虎の面をつけさせられて奴隷の剣闘士として生きてきたオルバ。ギル・メフィウスと互いの国家間の戦争終結の為に政略結婚として輿入れしてきた、時には自分で飛空挺にも乗るほど気の強い勝気なガーベラ王国王女のビリーナ。奴隷で剣闘士、オルバの仲間ゴーウェン。奴隷で剣闘士の美丈夫、シーク。オルバがギルと同じ顔を持っていることに気がつきオルバに鉄の虎の面をつけさせた張本人、メフィウス貴族のフェドム。オルバたちと同じ奴隷達の収容所で竜の世話をしていた竜神信仰の部族出身のホゥ・ラン。ギルの義妹だが、兄のギルを試すようなそぶりを見せたりと含みのありそうと思しきイネーリ。
今巻での登場は奴隷剣闘士であり、メフィウス王家に強い恨みを持つ実力のある『豪腕』パーシル。国の行く末を愁うが為にガーベラやエンデといった諸国から唆される重鎮貴族のザット・クォーク。老将軍でゴーウェンと意気投合したローグ・サイアンと、その息子のまだ12、3才という若さのロムス。ガーベラの大使にして知略家、前巻で討たれたリュカオンとも知己であったノウェ・サウザンテス。といったところです。
・シナリオ
初陣で勝利を飾り帝都へ凱旋したオルバ。都では皇帝の専横が目立ちはじめていた。反皇帝派の不穏な噂を耳にしたオルバは、真相を探るため建国祭の大剣闘大会に出場することになる。反皇室派のほかにも、ガーベラからの使者ノウェ、ビリーナに敵意を燃やす皇太子の義妹イネーリ、オルバを操ろうとするフェドムなど、帝都は様々な思惑の坩堝と化す。そんな中、オルバは皇太子と剣闘士、二つの役割の間で揺れ動く。一方、ビリーナはオルバへの複雑な想いと、異国の姫という立場の間で思い悩む。はたして二人の関係と帝都を舞台にした政争の行きつく先は—。(7&YHPより抜粋。)
・感想
同じ電撃文庫に似たような環境設定―――皇子と入れ替わった主人公が活躍する―――というものがある作品の、第2作目です。
今巻はギル皇子と入れ替わった剣闘士オルバが、国を巻き込む陰謀に対してその正体(剣闘士オルバであるということ)を隠しながら皇子ギル・メイフィウスとしても剣奴隷オルバとしても行動し、見事に陰謀を防いでみせる―――というものでした。
この巻からようやく、この作品の魅力が発揮され始めた!という気がしましたね。
タザリア王国物語と違うのは、やはり主人公であるオルバが偽皇子としての自分―――ギル・メフィウスである、ということに囚われずに必要に応じて元の姿―――剣奴隷オルバ―――に戻り、暗躍できる事でしょうか。皇子として宮中での情報を集めつつも、皇子としての身分では入れない場所に行ったりして情報を集め、フェドムが為そうとしている事、ザットの企みなどに迫っていく様子は皇子と剣奴隷の二つの顔を持つ事を上手く利用している、とオルバの機転や判断力に感心します。
そしてそんな二面性がもたらす擦れ違い―――ギルもオルバも1人の人間でありながら、2人いるかの如く振舞っている為に周囲の女性陣の評価が変わるという面白い様子を見せていました。同一人物に対して向けられている筈なのに、「片方には深く激しくも愛憎乱れた感情を向けられながら、片方には『うつけ』と見られ軽んじられた態度を取られる。」「片方には分かり合えない夫と接されつつ、片方には安否を案じる友人として接される。」ということになったりしていて、どちらも今後の対応と正体が明らかになったときの態度が、今からどんな風になるのか楽しみですね。
その他の展開としては、再び剣奴隷オルバの姿になって剣闘士として闘技場で戦うシーンが、結構緻密に描写されていたのが印象に残りました。オルバのカウンター戦法の解説交じりの戦いから、パーシルの戦い方の地味さとそれゆえの有力さの解説など、一戦一戦が事細かに書かれていました。
次巻は首都を離れた場所にあるアプター砦にギルとビリーナが向かわされ、その地の一時的な守護を任せられるというもので、オルバ自身が感じていたようにグール・メフィウスにギル・メフィウス/オルバが試される、という話になるようですね。何かしら事件―――恐らくアークス・バズガンという地方領主みたいな存在との戦いになるでしょうから、そこでオルバが何をするのかが気になります。
総じて今巻は国の中の陰謀をオルバ/ギルが明かして国内の憂いを払拭するも、そのことでさらに現皇帝のグール・メフィウスの行動に拍車がかかり、今後の大掛かりな展開―――グール・メフィウスとオルバとの戦い――ーへの布石が巻かれていたりして、きな臭いにおいを漂わせながらの終幕となっていました。