“文学少女”はガーゴイルとバカの階段を昇る

コラボアンソロジー2 “文学少女”ガーゴイルとバカの階段を昇る

著者は4人。『文学少女』シリーズ作者の野村美月先生。『バカとテストと召喚獣』シリーズ作者の井上堅二先生。『吉永さん家のガーゴイル』シリーズ作者の田口仙年堂先生。『学校の階段』シリーズ作者の櫂末高彰先生。挿絵も4人。『バカとテストと召喚獣』シリーズ挿絵の葉賀ユイ先生。『文学少女』シリーズ挿絵の竹岡美穂先生。『吉永さん家のガーゴイル』シリーズ挿絵の日向悠二先生。『学校の階段』シリーズ挿絵の甘福あまね先生。
・登場人物
文学少女』シリーズからは主人公である井上心葉とヒロインで“文学少女"の天野遠子。心葉のクラスメートの琴吹ななせ。
バカとテストと召喚獣』シリーズからは主人公である吉井明久、ヒロインの姫路瑞希と島田美波。明久の友人でクラスメートの坂井雄二。土屋康太。
吉永さん家のガーゴイル』シリーズからは吉永双葉、和己兄妹と父母にガーゴイルという吉永一家勢揃い。
学校の階段』シリーズからは神庭幸弘、九重ゆうこ、刈谷健吾、天ヶ崎泉、三枝宗司、井筒研といった階段部メンバー。
・シナリオ
瑞希の恋のために遠子が召喚獣対決を!?—『“文学少女”と乙女に集う召喚獣』。遠子がムッツリーニ殺人事件を解決!?—『“文学少女”と殺された莫迦』。旅行中の吉永家が階段部にやってきて—『天栗浜のガーゴイル』。九重に強引に“召喚獣階段レース”に参加させられた階段部は?—『バカと階段と召喚獣』。交換入部をさせられることになった心葉と幸宏の運命は…『“文学少女”とやってきた走者』の珠玉の5編で贈る夢のコラボ集第2弾。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は各種作品とのクロスオーバー・企画ということでアンソロジー風味に短編が複数収録されている作品です。
収録されているのは「“文学少女”と乙女に集う召喚獣&extra episode」「“文学少女”と殺された莫迦」「天栗浜のガーゴイル」「バカと階段と召喚獣」「“文学少女“とやってきた走者」の以上5作+α。
“文学少女”と乙女に集う召喚獣&extra episode」。これは野村美月先生&葉賀ユイ先生による『“文学少女”シリーズ』と『バカとテストと召喚獣』のコラボ作品で、『文学少女』側が『バカとテストと召喚獣』の学校にやってくる―――という設定です。姫路瑞希と知り合いだった天野透子が、姫路が悲しんでいる状況を偶然知った結果、透子が心葉を連れて文月学園に赴き、姫路を悲しませている元凶と考える明久と雄二に対して召喚獣対決を仕掛け、それに琴吹ななせや島田美波が関わったりする、というもの。透子が土屋康太に保健体育科目での対決で引けを取らないなど色々な意味で凄い所を見せたり、逆に理数系で驚異的な点数を見せつけたり、心葉が理数系が実は得意な所を見せたりと、色々な見せ場がありました。野村先生による『バカとテストと召喚獣』メンバーの演出が原作者に負けないキャラクターのアクの強さを見せていて、違和感無く読めましたね。
“文学少女”と殺された莫迦」。これは井上堅二先生&竹岡美穂先生による『“文学少女”シリーズ』と『バカとテストと召喚獣』のコラボ作品で、前の話となる「“文学少女”と乙女に集う召喚獣」の話から続いているような形になっています。前話での出来事の後、明久から受け取った手紙を味わった透子がその酷さに憤慨し、再び文月学園を訪れる事から物語は始まります。透子と心葉が再訪した折、土屋康太が何者かに襲撃される事件が起きます。その事件解明に燃え出した透子に連れられて心葉も事件に関わる事になり―――という、若干シリアスタッチの作品です。しかし、作者は「バカとテストと召喚獣」の作者である井上堅二先生。シリアスタッチの話もあれよあれよとコメディのノリになります。心葉が女装したり、レズ少女の清水に言い寄られたり、女装心葉と秀吉が出会い互いに「キミが男の筈が無い!」と主張しあったり、犯人が明らかになるところでも「流石Fクラス!」と笑いながら言わずにはいられないオチが待っていたりします。シリアスかつしんみりした話が多い『文学少女』も、『バカとテストと召喚獣』の面子を前にしては明らかに力負け―――というか、呑まれてしまう印象が強かった話でしたね。
「天栗浜のガーゴイル」。これは田口仙年堂先生&日向悠二先生による『吉永さん家のガーゴイル』と『学校の階段』のコラボ作品で、天栗浜高校に吉永家がやってくる―――そんな話です。家族旅行の途中で天栗浜高校の近くまで来ていた吉永家に階段部を知ってもらい、小学生レベルから階段部を有名にしよう!という考えをした九重ゆうこにより、神庭幸弘と吉永双葉による階段レースが開催されることになります。吉永双葉にはガーゴイルを初めとした階段部メンバーのサポートが付き、それでハンデなしとして高校生VS小学生の異例の階段レースが見られました。通常の階段レースとは違い、ガーゴイルによる手伝いありということで、双葉は上を走れる光線の道を駆け上がったり何階分もの高さから落下してのショートカットをしたりという、ガーゴイルの特殊性を存分に発揮したレースでしたね。また、天栗浜高校と言えばこれ、という筋肉研究会も登場。その筋肉を見せながら双葉にも目をつけ、話を面白おかしく引っ掻き回していました。
「バカと階段と召喚獣」。これは櫂末高彰先生と甘福あまね先生による『学校の階段』と『バカとテストと召喚獣』のコラボ作品で、試験召喚システムの事を知った九重ゆうこが「面白そう」という理由で天栗浜高校階段部を引き連れて文月学園にやってきて、そこで出会った明久たちを相手に召喚獣を使って階段レースをする、という異色の階段レースが見られる話です。この作品の面白い所は明久だけが実体を持っていて物に触れる事ができる、という設定を話に活かしている事と、全5作品中最大人数である12キャラを動かしている、ということですかね。また櫂末先生の御家芸である階段レースを召喚獣たちがする、ということで櫂末先生の持ち味を薄れさせる事無く演出している面白みがありました。
「“文学少女“とやってきた走者」。これは野村美月先生&甘福あまね先生による『“文学少女”シリーズ』と『学校の階段』のコラボ作品です。学校交流の一環で、部活交換―――交換学生が相手側の学校の部活動を体験するということになり、そこで天栗浜高校は階段部に井上心葉を受け入れ、聖条学園は文芸部に神庭幸弘を受け入れる、という話になります。この話は階段部を体験する心葉と、文芸部を体験する神庭の話で終始します。階段レースという理解できないものに振り回され、不満を募らせていきながらもその行為―――階段を走る、というものに知らずに魅せられていく心葉と、文芸部の活動として三題囃を書くうちに神庭が自分の中にある衝動―――階段を走りたい―――というものを見据え、それを文章として書いていくうちに透子もまた、階段レースというものに興味を示す―――という、『学校の階段』が『“文学少女“』に、『“文学少女“』が『学校の階段』に、それぞれ影響を与えていく様子が描かれた話でした。
総じてこの作品はコラボレーション作品ということで色々な作品の登場人物が出てきますが、根元を見てみると『“文学少女”』シリーズが他の作品に色々影響を受ける、という展開が多く見られますね。文学少女シリーズが関わっていない話もあるので、その限りではないですが互いに影響を与え合う話、という面では共通していると思います。それを差し置いても、そういった本来関わる筈の無い別々の作品同士が出会い関わる―――それだけでも面白い、そう思える作品でした。