キノの旅12

キノの旅 the Beautiful World 12

著者・時雨沢恵一先生。挿絵・黒星紅白先生。時雨沢先生は同レーベルで『アリソン』『リリアとトレイズ』といったアニメ化された作品を出されていますね。まぁ、この『キノの旅』が時雨沢先生の作品の中では一番最初にアニメ化されゲーム化もされた作品なのですが。出している作品が全部アニメ化されている人気作家、ということになりますか。
・登場人物
数丁のパースエイダー(銃器)を手に相棒のエルメスと世界を渡る男装の麗人、キノ。キノの相棒で喋るモトラド(自動2輪車。空を飛ばないものだけを指す)で、時折間違ったことわざを口にしてキノと読者を混乱させるエルメス。元王族で現在は旅人、刀の達人でバギーに乗って安住の地を求めるシズ。シズの相棒で喋る犬の陸。シズと陸が立ち寄ったある国で出会い、とある出来事の後、シズと陸と一緒に旅をする事になった無口な少女のティー。キノの師匠に当たりキノに旅のいろはを教えた女性、話として出るのは若かりし頃の『先生』。『先生』の相棒(舎弟?)で『先生』と小さな車で旅をする『男』。
今巻から新しい旅人として『元奴隷の少女』と『口の悪いモトラド』が登場します。
・シナリオ
そして、すぐに、キノとエルメスは大きな病院の前にさしかかった。玄関ドアの前に、数人の看護婦が見送りをするために並んでいた。さらに、一台の黒塗りの車が道に止まっていて、運転手がそのドアを開けるところだった。車の後ろにエルメスを止めて、キノはその光景を眺める。やがて、祝福の声に包まれて、病院から夫婦が現れた。若い二人は顔に笑顔を浮かべながら、夫の方は大きな鞄を、妻の方は、小さなバスケットをその手に抱いていた。夫婦はお世話になった看護婦達に何度もお礼を言って、幾人かと笑顔で抱き合った。(プロローグ「幸せの中で・b」)他、全16話収録。(7&YHPより抜粋。)
・感想
旅人キノが立ち寄る国で起きる様々な事を短編連作として綴っていく人気シリーズの、第12巻です。
長短を問わぬ全16話が本書からカバー裏から口絵からと、場所を問わずに羅列されています。収録されている話は数多いのですが、どれにも共通する特徴としては何かしらの教訓めいた話、或いは言い回しに妙があり、読んだ後に何かを感じる話ばかりだ、ということがあるでしょうか。
また今巻では新登場?的な奴隷少女が口の悪いモトラドと出会い、その立場から開放されて旅人のようになる話があるので、この2人(1人と1台?)がどんな旅をしていくのか、気になりますね。キノのように先達に指示を受けたわけでもなく、シズのようにそれなりに恵まれた環境で育ちその後自分を鍛えたわけでもない、一介の元・奴隷がこれから旅の事を知っていそうなモトラドと一緒にどんな旅を見せてくれるのか―――続刊に期待が高まります。
総じて今巻も、不思議な印象を受ける話が多かったです。ひとつの国をキノ、シズ、先生の3人がそれぞれ立ち寄った時のそれぞれの通り過ぎ方の違いが見られたり、先生やキノが詐欺紛いのことをして人の世の無常っぷりを書きながらも先生とキノでは最後の詰めが違うなど、読んでいて何かためになる、読んだ後にちょっとした感心と何かしら考える事ができる話でした。