アスラクライン11

アスラクライン11 めぐりあい異世界

著者・三雲岳斗先生。挿絵・和狸ナオ先生によるハイスクール・パンクシリーズ作品の第8段です。著者の別著作としては「コールド・ゲヘナ」シリーズ、「i.d. (1) (電撃文庫 (0791))」シリーズ、「レベリオン―放課後の殺戮者 (電撃文庫)」シリーズ、後は単発?で「道士さまにおねがい (電撃文庫)」「道士さまといっしょ (電撃文庫)」なんてのがありますね。
・登場人物
主人公で重力を操る機巧魔神『クロガネ』の演奏者の夏目智春を中心に、クロガネの副葬処女で智春にくっついている幽霊もどきの水無神操緒、炎の悪魔で智春を護ろうとする美少女の嵩月奏、体の半分を機巧魔神のパーツで補った半人半機の智春たちの先輩である黒崎朱浬、メインはこの辺りで、サブキャラクターとして智春のクラスメートの樋口琢磨、大原杏、佐伯玲子、天才少女で飛び級で智春たちの学校に交換留学生としてやってきて行方不明の姉を捜していたアニア。副葬処女を失った元・演奏者の佐伯玲子郎、第2生徒会生徒会長の倉沢六夏、同会員の佐原ひかり、第3生徒会の会長で智春たちの上司にも当たる橘高冬琉、智春たちが所属する科學部部長の荽塔貴也。操緒の姉の水無神環緒。GD最強の機巧魔神『白鋼』を持つ男装の麗人、雪原瑤。こんなところでしょうかね。
しかして今巻では、物語の都合上、上記の登場人物の大半が未登場です。
新登場はニ刀を持ち『クロガネ』という名を持つフクロウを従えるパンク風ファッションの大学生、冬琉の姉妹の橘高秋希が登場します。
・シナリオ
機巧魔神“鋼”との戦闘に敗れ、一巡目の世界へと飛ばされた智春。傷つき、たった一人で異界の街を彷徨う彼が出会ったのは、人々に「魔女」と呼ばれている呪符使いの少女だった。元の世界によく似ているが、なにかが違う異世界の姿に混乱する智春。それに追い打ちをかけるように現れたのは、かつて“黒鐵”の中で消滅したはずの少女、橘高秋希。そして智春と再会した奏の身体に起こっていた異変とは—?姿を消した操緒の行方は…!?謎が謎を呼ぶ大人気スクールパンク、大波乱の第11弾。(7&YHPより抜粋。)
・感想
学園スクールパンクの第11巻で、前回、驚愕の黒幕を相手に大敗を喫した智春が戦いの果てに別の世界―――“1巡目の世界”に飛ばされ、そこで行動する新展開の始まる巻です。
今巻の注目点は『1人で動く智春』『洛高の魔女の正体』『いない筈の人間との出会い』といったところでしょうか。
智春は操緒とさえ連絡が取れず、完全に1人の状態からスタートして“1巡目の世界”の仲間を作ったり情報を集めたりして、智春と同じように“1巡目の世界”に飛ばされた筈の嵩月やアニアを探す―――そんな、智春のたった一人での戦いが始まります。しかしそんな状況の悪さから始まっている分に見合うかのように、そうする中で機巧魔神の秘密に触れていくという、物語の核心に段々と近づいく話でもありました。
この巻では驚愕の展開が続きます。そもそもメイン・ヒロインのひとりである操緒がほぼ完全に登場しません。機巧魔神が無い世界に飛ばされた事で機巧魔神との接続が切れている智春では、副葬処女である操緒とは連絡が取れない、という設定です。そのため、これまでここぞという所では決めセリフでもある「大丈夫、操緒がついてるよ」と共に智春を支えてきた操緒が存在しない状態で智春が孤軍奮闘しなければならなくて、ふとした瞬間に今まで通りに操緒に話し掛けてしまい、返事の無い状況が描写されて異世界での智春の孤独な苦闘が強調されて書かれていました。
その代わりというとなんですが、今巻はメイン・ヒロインのもう一方―――奏にも目立った活躍はありませんでした。というより、前巻ラストで非在化の発作を起こして消滅しかかった奏は、ある方法で助かった代わりに人間になっていて、悪魔の力を失っている状態です。智春と合流しても、悪魔の力を失った元悪魔の人間と機巧魔神の力を失った『元演奏者(エクス・ハンドラー)』ではないが限りなくそれに近い演奏者という、無力な2人組にしかならず、なかなか状況の好転が見られませんでしたね。
しかし―――無力な状態の智春と奏が合流して、敵勢力に襲われた所から転機が始まります。“2巡目の世界”では既に副葬処女として消滅していた橘高冬琉の姉妹、橘高秋希との出会いと彼女の協力を得られるようになった事。そして既に世界移動をしてここにはいない夏目直貴の“彼女”と噂される『洛高の魔女』との遭遇。それら彼女たちと出会ったことで、世界を飛んだ時に自分たちに何が起きたのかを知った智春は操緒を助ける為に“1巡目の世界”最大の特徴である『中央渦界域』へと向かう―――というところで続いております。
今巻は戦闘面に於いても意外な方向性で智春が活躍したりする話でした。機巧魔神の演奏者として戦ってきた智春が、今巻では機巧魔神ではない『力』で自分の身に降りかかる脅威を払うなら、奏は悪魔として智春を守ってきた今までとは違って、戦いに飲まれかける智春を人間として身体を張って止めると言う、どちらも新展開らしく戦闘面でのそれぞれを思いやる心情は変わらないながらも立ち位置、役割が変化している巻でした。
総じて今巻は大雑把に言って『アスラクライン・1巡目の世界編』とするならこの巻は前編だそうで。残りの後半部分で、どれだけの事が明かされるのか今から楽しみですね―――。