神曲奏界ポリフォニカ ダン・サリエル1

神曲奏界ポリフォニカ ダン・サリエルと白銀の虎 (GA文庫)

神曲奏界ポリフォニカ ダン・サリエルと白銀の虎 (GA文庫)

神曲奏界ポリフォニカ ダン・サリエルと白銀の虎

著者・あざの耕平先生。挿絵・カズアキ先生。あざの先生は富士見ファンタジア文庫レーベルでの「BLACK BLOOD BROTERS」シリーズで有名ですね。
この作品は以前発売された「神曲奏界ポリフォニカ ぱれっと」に収録されたあざの先生の書いた話を抜粋して再収録&新たに書き下ろされたもので1つの作品にした、という感じになっています。
・登場人物
主人公であり、数多くのファンを持つ今をときめく天才音楽家にして神曲楽士、唯我独尊的な性格で契約精霊であるモモを雑に扱ったりするが、本当に音楽を愛していてとても繊細な心をもつダン・サリエル。愛らしい少女の容姿を持ちメイド服姿で甲斐甲斐しくサリエルの世話を焼くが、サリエルからは今ひとつキビシク且つ冷たく当たられてしまうサリエルの契約精霊であるフヌマビック(人間型)の中級精霊、モモ・パルミラファルスタッフ。かなりの腕前を持ち並みの神曲楽士以上の音楽の才を持つが、極端なほど重度のあがり症で人前では演奏できないという欠点を持つ、<七楽門>のひとつであるキーラ家の令嬢、キーラ・アマディア。アマディアの才能に惚れこみ、彼女が神曲を演奏できるようになるまで待つと公言しサリエルからの精霊契約の申し出も断った、虎の姿を持つベルスト(獣型)の上級精霊、コジ・クロエ・フィガロ。メインキャラクターはこの4人、というところで。
他のサブキャラクターは、アマディアを世話する乳母であるセラ。音楽界の重鎮で、サリエルを相手に大学の学園祭でサリエルに大事な事をひとつ、教訓めいて教えてゆくワヤ・ハイゼン。
さらにクリムゾン・シリーズからゲスト・キャラクターとして登場するツゲ・ユフィンリー。タタラ・フォロン。コーティカルテ・アパ・ラグランジェス。サイキ・レンバルトなど。
・シナリオ
新進気鋭の音楽家にして、神曲楽士のダン・サリエル。世間でその才能は高く評価されているものの、性格はといえば、傲岸不遜で傍若無人、唯我独尊な俺様—である。そんな彼がある日、一柱の上級精霊コジと出会った。この精霊がいたく気にいったサリエルは、珍しく自ら契約を申し出たのだが、すげなく断られてしまうのだった。意固地になったサリエルは、なんとか彼と契約を結ぼうと計略するのだが…。表題作のサリエルと、コジ、アマディアの出会いを描いた『ダン・サリエルと白銀の虎』ほか、全4作品を収録。サリエルの華麗な名演をご堪能ください。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は以前刊行された複数の作家がシェアード・ワールドポリフォニカの世界観で各々の作品を発表したオムニバス形式の短編集「神曲奏界ポリフォニカ ぱれっと」で収録されていた、「ダン・サリエルと白銀の虎」をポリフォニカの新シリーズとして再度単独で発行した作品、ですね。
主人公であるダン・サリエルが倣岸不遜にして唯我独尊の天才音楽家神曲楽士、というのはブルー・シリーズの主人公であるシーヴァル・クルナに似ているところがありますが…この両者の音楽に対する姿勢として、クルナがその天才性に迷い常に自分さえも誤魔化し続けている。とありますが、サリエルは”大衆が受け入れる音楽を自分の音楽として作っている”という自分の音楽への不安から、音楽への真摯さを隠しつつも音楽を愛するが故にどこかで正直になってしまう、という点で最大の相違点がありますか。サリエルが倣岸不遜な面も、そういった不安からくる強がりの一面もあるのかと感じられ、ただの憎らしい主人公、という訳ではなくて魅力的でしたね。
収録されているのは3話+おまけの1話で合計4話。
表題作であり「ぱれっと」で発表された作品の再収録である物語の基本的な所―――サリエルやモモの説明と、アマディア、コジとの出会いが書かれる、第1話「ダン・サリエルと白銀の虎」。サリエル・モモ・アマディア・コジというメインキャストたちの出会いという物語の基礎が語られる大事な話でしたね。
第1話は再収録でしたが、第2話からは未発表の新作になります。第2話はコメディ色が強く、またクリムゾン・シリーズからのゲスト出演が多数登場する話で、国宝級に貴重な単身楽団を手にしたサリエルがアンティーク単身楽団の収集家でもあるツゲ・ユフィンリーを悔しがらせようとユフィンリーを呼び出したところ、思いもかけない事態が登場する人物たちによって次々と発生して、しかも各人がそれを隠したり誤魔化そうとしたりしたために最終的に収拾がつかないほど全員が追い詰められていく「ダン・サリエルと栄光のヤマガ00壱型」。各人の必死さがあざの先生による絶妙なタイミングで挿入される改行や間により演出され、大いに笑いを生み出していました。
第3話は音楽界の重鎮と呼ばれるワヤ・ハイゼンを相手につっぱるサリエルの姿を通じ、サリエルが音楽に対してどれだけ真摯であるかということが語られ、またワヤ・ハイゼンというひとりの老楽士がどれだけ崇高に音楽と向き合っているかという、相反するように見えて根幹である音楽に対する姿勢、という点では共通する2つの音楽家の姿が書かれる「ダン・サリエルと孤高の老楽士」。両極端ながらどこか似ている2人の楽士の対立という形で、音楽というものに対する姿勢、楽しみ方、表現方法などが描かれ、音楽というものの幅や懐の広さを魅せてくれていました。
そしておまけの、サリエルの契約精霊である愛らしき中級精霊モモの日常が書かれる「モモ・パルミラファルスタッフの幸せな一日」。文句を言いながら朝から苦労してサリエルをお世話するも、どこか嬉しそう&楽しそうな苦労人のモモの日常が垣間見れます。アマディア、コジと出会い彼女たちと交流する事で賑やかさを増したモモの1日―――その、本人からすれば苦労が多い、というでしょうが傍から見るには充実した日々に輝くモモの姿が見られました。
総じてこの作品、他のポリフォニカ・シリーズとは若干違い大きな『ストーリー』というものはまだ無いですね。何かしらの事件をメインストーリーに進めていくクリムゾン・シリーズやブルー・シリーズ、ホワイト・シリーズとは違い、毎回別の何かの事件を追うブラック・シリーズに近い形式です。ポリフォニカの短編集である『まぁぶる』は紅、青、白、黒、レオン、などの登場人物たちによる同じお題による短編集ですが、このダン・サリエルの作品は『ブラック・シリーズ+まぁぶる』とでも言うような形式でした。1冊でひとつの事件を追うのがブラック・シリーズなら、このダン・サリエル・シリーズは複数の出来事に出会うサリエルたちの姿を1冊に纏めて書いた―――そんな印象でした。