ばけらの!

ばけらの! (GA文庫)

ばけらの! (GA文庫)

ばけらの!

著者・杉井光先生。挿絵・赤人先生。杉井先生は「火目の巫女」という作品で第12回電撃小説大賞『銀賞』を受賞してデビュー。その後同作品のシリーズ化により電撃文庫を中心に活躍を初め、近著作は「さよならピアノソナタ」シリーズなどがありますね。
・登場人物
主人公で少年向け小説家の杉井ヒカル。ヒロインで狼の精霊という犬耳っ娘美少女だが株・ネトゲ・パチンコとNEET三大要素を全て網羅しているダメ小説家の葉隠イヅナ。
サブキャラクターは超大食漢で通称”ポリバケツ”の一度死んで蘇ったグールで小説家、風姫屍鬼。ヒカルやイヅナが住むアパートの大家で人気小説家でもある座敷童子である神無月つばさ。陰陽師で小説家なお姉さんキャラだが実年齢は百を越える黛亜里沙。一見ジゴロで一昔前の業界用語を日常会話でも使うラブコメ小説家インキュバスのエム。ヒカルやイヅナたち小説家勢が小説の執筆活動時によくたむろしているファミレスのアルバイトで、ヒカルからデニ子と呼ばれている女性。吸血鬼にして人気小説家、男爵ウーノ。
・シナリオ
とあるライトノベルレーベルからデビューした新人作家・杉井ヒカル。彼を取り巻く先輩や同期の作家たちは、驚くことにみんな美少女だった!—人間じゃないけど!!ヒカルが住むアパートでは、株やパチンコに熱中する不良狼作家・イヅナや、ちっちゃな少女の姿でエッチなラブコメ作品を世に送り出す座敷童作家・つばさが、今日も元気に玉稿を執筆中…執筆してるはず!「—羊はいいよ。羊だけは俺を裏切らないんだ。クリックすると必ず羊毛がとれるんだから」怖い編集に迫る締切。そんなときに限って起きるちょっとした事件!刺激いっぱいのラノベ作家生活、キミも一緒にはじめてみない—。(7&YHPより抜粋。)
・感想
正味な所を読むと、これは小説というより仮名によるセミ・フィクション小説―――とでも言うのでしょうか。文字通りである「作者=主人公」と言う設定の、架空(という扱い)小説家・杉井ヒカルの周囲で起きた出来事を周りの人たちが『妖怪』である―――そういう設定の元、ノンフィクションとフィクションを織り交ぜながら綴られていく日常風景を描いた作品。それがこの作品を読んでの印象でしたね。
基本的には主人公であるヒカルが、四苦八苦、紆余曲折しながらひとつの小説を書き上げていく―――そういう流れになります。その合間合間にヒロインやサブキャラクターたちに巻き込まれたり、ヒロインやサブキャラクターを巻き込んで何か出来事が起き、その顛末を書き、最終的にそれまでの経緯を『小説』としてヒカルが書きあげる…この作品はそういうものです。
これは『小説業界』というものを、フィクションで面白おかしく、しかしさり気なく真実味を混ぜながら語っていく、という作品でもありますね。小説家が如何に作品を書くのに苦労しているか―――それを、著者の体験談をフィクションぽくする事で書いている作品でもあるかな、とも思います。ですがこの作品の肝は、そのフィクションと現実味の割合がかなり危険な領域で混ぜられているところでしょうか。通常、このようなフィクションとノンフィクションが混じっているような作品はフィクション8で現実味2とかくらいであくまで設定も何も『架空の物語』として書かれるものですが、この作品はフィクション6、現実味4くらいで杉井光先生の周囲の小説家との交流とか編集部とのやり取りなんかを、若干の変化、脚色を交えながらもあくまでそのままと思える”ぶっちゃけ話”に近い比率で使用しており、それがこの作品が妙にフィクションながら生々しい感じの作品として仕上げておりました。
総じてこの作品、著者である杉井光先生とその交友関係による日常を、登場人物たちを『妖怪』として設定しやや脚色しながらもそのまま、あたかも著者先生の日記の如く書かれている、一種の暴露本のようでもありました。しかしフィクション部分による物語の起承転結や、山場とそれの主人公の活躍による問題解決によるカタルシスなども用意されていて、「小説家を主人公としたライトノベル」としても形態を保っており、一粒で二度美味しい的な作品でしたね。
しかしながら…某先生が某作品に参加する経緯としてこの作品の中で書かれている事が、脚色部分を抜けば「ギャンブルに負けたから」ということになり、微妙にこれが真実なのかどうなのか知りたいような、知りたくないような…そんな不思議な疑問も残すという、ある意味かなりの問題作品でした。