神曲奏界ポリフォニカ 黒8

神曲奏界ポリフォニカ リライアンス・ブラック

著者・大迫純一先生。挿絵・BUNBUN先生。シェアード・ワールド神曲奏界ポリフォニカ』の『ブラック』と呼ばれるシリーズ作品です。大迫先生は他著作にHJ文庫から『鉄人サザン』シリーズなど出されていますね。
・登場人物
精霊警官で警部補の巨漢の大男、マティアの契約精霊である通称マナガことマナガリアスティノークル・ラグ・エデュライケリアス。マナガと契約している楽士警官であるマチヤ・マティア。
事件に関わる人物としては、前巻から引き続いて登場で今巻では被疑者となってしまう、マチヤ、マナガの友人で同じアパートに住むトルバス神曲学院生、明るい、元気、素直と、向日葵の様な印象を与えるサジ・シェリカ。シェリカのバイト先にお客として顔を出していた、演出家のウズネ・レヴィネロ。今巻での被害者、ギターを使った単身楽団を演奏中に感電死したシェリカのアルバイト先の同僚で、ウズネの友人だったシギナ・セデルキン。シェリカ、シギナのアルバイト先『マレオミ楽器』の店長のマレオミ・ラースマイア。『マレオミ楽器』で働く精霊のドラッセリア・シェロ・アニテロイダ。感電死したシギナがいたミュージック・ドームで警備員をしていたカネダ・イクフォリント。ミュージック・ドームの運営者のクトミ・レジアド。
・シナリオ
トルバス・インディーズ音楽祭前日、会場のステージで死体となって発見された神曲楽士シギナ・セデルキン。彼の異様な死に様は、単身楽団の漏電によるものと推測された。
 だが、おかしい。現場にあった単身楽団には何の異常もなく、かつバッテリー程度の電圧では感電死するはずもない……。
 やがてシギナのバイト仲間であるシェリカが捜査線上に浮かび上がる。
 「あたし、やってないよ?」
 シェリカの声は震えていた。初めて接する「警官としての」マティアとマナガ。そして脳裏によぎるのは冤罪で投獄されていた父と、自身の2年間の逃亡生活。孤独感。恐怖。
 ブラックシリーズ、緊迫の第8弾!(GA文庫OHPより抜粋。)
・感想
今回の話は要約すると「疑われるシェリカ」ですね。
前巻で父の嫌疑を晴らす為、マチヤとマナガの2人に協力してもらい事件の真相に至ったサジ・シェリカ。彼女が今回は被疑者となってしまい、信じたいマチヤとマナガと、被疑者という立場になってしまったシェリカが様々な事に迷い、怯えながらも毅然と真相に立ち向かっていく―――そんな姿が、この巻では見られます。
この巻では刑事としての立場と、シェリカの友人としての立場でのマチヤとマナガの2人の迷いが、シェリカとの会話などの端々に見られて切ない部分が多かったですね。刑事としては疑って当然の相手、しかしその相手はマチヤの親友とも呼べる友人で、彼女がそんな犯罪をするわけは無いと思っている。しかし刑事としては疑わなければならない―――そんな立場でのもやもや感が、マチヤのこれまでの犯罪で見せていた毅然とした態度が揺らいでいたりして、よく表現されていました。
そして被疑者として親友からも、周りからも疑われる立場になってしまったシェリカ。仲の良かった同僚の死に関する事件での被疑者というだけでも辛いのに、冤罪であると自分は確信しているのにそれを証明できない、父親の事件にも被る状況、加えて過去の事件における救いの手だったマチヤとマナガは立場上面と向かってシェリカを擁護できずと、かなりシェリカの立場は悪い状態で話が進みます。その間の彼女の苦悩や怯えなどが短く一言で書かれている内面、呟くような連続した短いセリフなどから切々と訴えられていて、読む者に「彼女の冤罪」を晴らしたいと思わせるような展開が見事でした。
また、真相が明かされるときなどは、「古畑任三郎」シリーズに見られるような「真犯人はこいつ」と確信している状態で真犯人にぼろを出させるような話の持っていき方、状況の用意、展開などがあり、シェリカやマチヤ、マナガたちに不安などを感じさせていた真犯人に一泡吹かせるという読者がそのフラストレーションを払拭できるような展開は爽快でしたね
総じてこの巻は、真犯人に冤罪を被せられたシェリカを救う―――そういった流れですが、その中でシェリカの不安感や心細さが良く描かれており、また、マチヤやマナガも自分の立場からシェリカを歌が疑わなければならない状態での真相究明になっており、登場人物たちの内面での迷いや不安といった、『負』の感情―――ネガティブな精神状態がとても細やかに書かれている作品でしたね。