カクレヒメ

カクレヒメ (電撃文庫)

カクレヒメ (電撃文庫)

カクレヒメ

著者・佐竹彬先生。挿絵・草野ほうき先生。佐竹先生は電撃文庫レーベル「φシリーズ」、「七不思議の〜」シリーズなどを書かれています。草野先生は月刊コミックガムにて2008年07月現在、漫画「ネコミミデイズ」を描かれているそうですね。
・登場人物
メインキャストは、主人公に”触覚を物体の中に潜り込ませる事ができる”能力を幼少時の誘拐事件での体験で得た高校生、瀬畑明珠。世界的企業『カンナギ』グループの一族の出身で、一族特有の特殊な教育により育てられ、現在は時任病院第八号棟で引き篭もるようにして生活する巫部梓。
サブキャラクターは『感覚拡大症』と名付けられた疾患を研究している新留沙織。その同僚の篠原悠祐。冒頭で明珠が巻き込まれる事故で知り合う飯塚夫妻。警察関係者として入戸野警部などが登場します。
・シナリオ
唯一の話し相手の少女は“とじこもる”少女──。
“触覚を物体の中に潜りこませることが出来る”高校生・瀬畑明珠は、旅行中トンネル事故に遭遇する。能力を使って救助を呼ぶことに成功したのだが、同乗者の新留紗織に能力者であることを見抜かれてしまう。新留は明珠の持つ能力を"感覚拡大症"として研究する特殊機関「時任病院・第八号棟」の医師だった。自分の能力に隠された真実を知り、その施設で八年もの間、外との接触を断って過ごす少女・梓に出会い──。
 繋がりを求めて能力を得た少年と、能力を持つが故に隠れた少女。不器用な二人のハート・コンタクト・ストーリー。(電撃文庫OHPより抜粋。)
・感想
この作品は異能力者のボーイ・ミーツ・ガール作品ですね。異能力が出てくる割に派手なバトルシーンなどが無いことも意外です。
話としては離れた所にあるものに触れる異能力を持つ主人公が、秘密にしていたその能力が事故に巻き込まれた事で一部の関係者にバレ、その能力を調べている研究機関があることを知ってそこに関わる事で、ヒロインと出会って、その研究施設に関わりながら生きていくうちに色々な体験をす。その内に起きたヒロインに関するちょっとした事件的なものに関わっていく―――そんな感じですね。
前述したようにバトル的な要素は無く、話は基本、日常的なシーンの繰り返しで進んでいきます。主人公がその能力を使って警察に協力して未解決事件の捜査協力をする、というのが日常とは違うシーンとして演出されるくらいですか。あと、冒頭にある話の始まりである事故のシーン。そういう訳で、この作品は異能力が登場する割にその内容はソフトというか、人と人が関わっていく―――コミュニケーションに主眼を置いた作品ですね。ただ、若干気になる程度ですが登場人物に特に魅力を感じるキャラクターがいなかったのが少し気になりました。主人公は朴念仁ぽい男の子と言うか、やや達観している物の見方をしていますがあくまで普通の高校生男子ですし、ヒロインが所謂『ツンデレ』系と、時流というか時勢に乗った形なのかもしれませんが、登場人物に真新しさ、新鮮さがあまり感じられませんでした。まぁこれは、私がいろいろ乱読しているからそう感じるだけなのかも知れませんが…。
総じてこの作品は新しい試み的なものはあまり見られない、既存の設定で編み出された人物達が殆どですが、それらが関わりあう姿―――コミュニケーションを取っている姿は丁寧で、理路整然と話が進められていてその時々の人たちの行動に関して納得いける判断を取っている、というのが良くわかりますね。そして人と関わること、相手のことを知っていくことは、異能力があろうと無かろうと関係無い、自分からの歩み寄りが大事なのだということを全編を通じて語っている―――そう感じましたね。