ぷりんせす・そーど!1

ぷりんせす・そーど! 1 戦うサツキとプリンセス (GA文庫)

ぷりんせす・そーど! 1 戦うサツキとプリンセス (GA文庫)

ぷりんせす・そーど!1 戦うサツキとプリンセス

著者・神野オキナ先生。挿絵・深山和香先生。神野先生はファミ通文庫「闇色の戦天使」でデビューし、MF文庫Jで「あそびにいくヨ!」シリーズを書かれている実力派小説家ですね。
・登場人物
主人公で、異世界の国、ソグディアナ王国の代表である『戦神騎士』というものに選ばれてしまい、現世で女装をして騎士として戦うことになる南天五月。ソグディアナ王国の代表の1人で、サツキが手に持ち戦う『剣』に『鎧』に変身する武騎人と呼ばれる種族である男嫌いのジリオラ。国交決闘においてソグディアナ王国を代表する国家代表者で、サツキの母・ハヅキと面識のある長命のハーフ・エルフ種族にしてソグディアナ第4王女であるニファーリア。
敵側はタイハン帝国。タイハン帝国の『戦神騎士』である、貧民上がりの向上心旺盛な女騎士タシアナ。タシアナの『剣』に『鎧』にとなるジリオラの実の姉妹、武騎人リーガ。国家代表者で男装の麗人である第4王女シムト。そのシムトを貶めよと裏で密命を受けて行動する国交決闘最高補佐官パガル。
他には、サツキのクラスメートである超行動的腐女子、笈也雅。腐女子の三沢弓枝。などなど。
・シナリオ
「ジリオラ!この方です!この方が我らの『戦神騎士』様です!」突然現れた異世界の姫ニファーリアと、武騎人の少女ジリオラ。偶然女装していたことから勘違いされ、一方的に“騎士”に選ばれた僕は、契約としてジリオラにキスされた—と思ったら、ジリオラの身体は変化して僕の剣と鎧になるし、なぜか僕の身体も、えぇっ、女の子になってる!?これが一心同体ってこと!?そのくせ、男嫌いのジリオラは男に戻ったボクを見てなんだかショックを受けてるし、敵の騎士は容赦なく勝負を挑んでくるし、同級生の笈也さんはなぜかぼくに女装ばかりさせようとするし、一体どうなるの。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は主人公巻き込まれ型の女装・バトル・小説ですね。基本は一対一の決闘形式で、それに主人公であるサツキが異世界の1国家の代表として戦う事になっていく―――中で、必要に駆られてサツキが女装したりしなければならないという、真面目な話と間の抜けた話を面白く交えた話です。
今回は説明的な内容の多い『基本設定説明の巻』という趣で、サツキの行動も『偶然』や『場に流されて』ということから起きる偶発的な内容が多い話でしたね。しかしそれだけ、サツキが戦いに巻き込まれてその戦いに順応していく様子は説明的で機械的で、どこか現実味の薄い作品でした。でも偶発的に巻き込まれればその決断などに重い背景など無い、ただ『女の子を助ける為』というありふれたものになるのも納得できる―――という形に収まる、非常に作品展開に説得力の高い物語でしたね。
バトルにおいては先述の現実味の薄さが、ファンタジー世界の背景による魔法などが行使される戦闘に繋がるという、そんな見事な連携が見られます。地の文による説明が超常的な現象として書かれ、そこからサツキが普通ではない様子で戦う姿を見せるなどして地の文とキャラクターの行動に合一性が見られ、物語の展開の妙を見せていました。
コメディ・タッチで進む話の部分は、腐女子たる笈也雅や三沢弓枝などによる南天五月の女装耽美化計画!という感じで進められ、腐女子の持つオタ・パワー的なものをその勢いと元気さ、それぞれの主張を書き分ける事で存分に書き記していました。男のオタクばかりが取りざたされる学生向け小説で女のオタクをこれだけ取り上げ、話の肝にまで関わらせている作品はそうは無いのではないでしょうか。
総じて、この作品はこれからも続いていくシリーズ作品の第1作として出てきたという訳で、この巻は説明的な内容の多い巻でした。しかしその説明の無機質な部分を現実味の薄さに繋げ、そこからファンタジー世界を現実世界に持ってきた戦闘時の舞台に持ち上げているという妙技を見せる、背景設定のしっかり出来た作品だと思いましたね。