シフト1

シフト1 −世界はクリアを待っている−

著者・うえお久光先生。挿絵・STS先生。うえお先生は他作品として電撃文庫レーベルで「悪魔のミカタ」シリーズ、短編では「ジャストボイルド・オ’クロック」等を書かれていますね。
・登場人物
実世界名/シフト世界名とで表記します。
メインキャストは主人公である赤松祐樹/怪物系キャラクターでトカゲ人間のラケル。ヒロインの???/モーニングスター使いの戦士系少女セラ。サブキャラクターとして???/クリエイター系女性キャラのミュージィ。祐樹の同級生でシフト世界の事を互いに知り合っている日野鷹生/???。
そしてサブキャストには???/ラケルの昔馴染みの怪物系キャラクターのウィンディ。???/『都』で用心棒などをしていたが旅に出てセラたちと出会うロック。実世界では目の見えない少女、小雪/シフト世界では巨大な蜘蛛型の怪物系キャラ、シェヘラザ。こんなところでしょうか。
他には悪役として魔法使い系キャラのJ・Sやセンジュ、戦士系で英雄に近い扱いをされている獅進リカルト、などがいますかね。
・シナリオ
一部の若者たちの間で起こった不思議な現象—眠るとRPGにも似たファンタジー世界へ“シフト”し、そこで、もう一つの生活を送る。なぜこの現象が起こるのかは分からない。たった一つのヒントは、“シフト”する時に聞こえる「世界はクリアを待っている」という言葉だけだった…。「現実世界」と「“シフト”世界」、眠るたびに二つの世界を行き来する、少年少女たちの“日常”と“冒険”を描く。『悪魔のミカタ』の著者・うえお久光が贈るモダンファンタジー第1弾。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は「眠ると世界を越えて別人になり、その世界で生きないといけない現象」を巡る話です。主人公として書かれる赤松祐樹は、シフトした先の世界では「ラケル」と呼ばれるトカゲ人間、というように現実の世界とは違う別人になる。そしてそこにいるのは皆子供ばかり―――そんな、ネットRPGのようなファンタジーな世界と現実の世界の二つで生きる子供達がそのシフトした世界で、或いは現実で色々な体験を通じて成長していく様子を描いた作品です。
この作品は、元々はハードカバーで出ていた本が文庫化され3ヶ月連続刊行されることになった一品です。
収録されているのはハードカバー版と同様の話数で、この巻では第1話「世界」、第2話「勇者」、第3話「姫君」、第4話「魔王」に、エピローグです。各話ではそれぞれにスポットを浴びるキャラが居て、それに関した話をしていく、という感じですね。
第1話「世界」、これは攫われたミュージィを助ける為に人攫いたちの所にセラがラケルを連れて乗り込み、戦闘をするという話です。その中で世界の説明と同時にラケル、セラ、ミュージィといったメインキャストを顔見せ、或いは御披露目する、という所ですね。大体の基本設定を語る共に、セラに対するラケルの立ち位置、ラケルに対するセラ、ミュージィの立ち位置、という辺りの事を書いてあります。
第2話「勇者」、これではシフト世界の事を知る日野鷹生が、現実世界で赤松祐樹=ラケルに相談を持ちかけその相談の検証の為もあり、ラケルが悪役の魔法使いキャラと戦う話。
第3話「姫君」では、セラが隠していたラケルの実力の程を知り、仲がぎこちなくなってしまった所で流れ者のロックの性に対する自分とは違う感覚を知り、色々な意味で揺れる『セラの話』です。乙女な気持ちと現実に揺れながら、人として成長を果たすセラの姿が見られます。
第4話「魔王」は、ラケルの昔の仲間シェヘラザに降りかかる不幸に関する話で、『怪物系』としてシフトする者たちと『人間系』としてシフトする者たちの間の『壁』のような物が顕著に見られる話です。また、ラケルの本当の力の一端が見られます。
そしてエピローグ。ここでは第4話で最後を迎えたシェヘラザの元に赤松祐樹/ラケルがやってくることで、現実とシフト世界の垣根を越えて2人が邂逅するシーンが書かれます。祐樹/ラケルの仲間を思う強い気持ちが書かれていますね。
総じてこの作品、登場人物たちの内面の描写に関してがとても丁寧に書かれています。仲間に関して強く思う姿を見せるラケル、性に関しての自分とは別の視点での見解を知り、その意見の中で『セラ』としての自分に深く思い悩むセラ、かつてのラケルを欲しその為になら自分を偽る事も見せるウィンディ、軽い印象の裏で実はとても深い悲しみを湛えるロック、現実では目に出来ない物に美しさと感動を素直に表すシェヘラザ、などなどが丁寧に丁寧に積み上げられ、語られていましたね。その丁寧な描写は読んでいる内にグイグイと読者を引きつける、うえお先生の魅力なのだと思います。