カンピオーネ!

カンピオーネ! 神はまつろわず (スーパーダッシュ文庫)

カンピオーネ! 神はまつろわず (スーパーダッシュ文庫)

カンピオーネ! 神はまつろわず

著者・丈月城先生。挿絵・シコルスキー先生。丈月先生は文庫形式での出版は初めてだそうで、シコルスキー先生は電撃文庫で『十三番目のアリス』シリーズなどの挿絵を描かれていますね。
・登場人物
主人公の<神殺し>にして神を殺した事で『王<カンピオーネ>』として神の権能を行使できるようになったが、性格は普通の高校生の草薙護堂。秘密結社『赤銅黒十字』の魔術師で護堂の愛人を自称する、自信に溢れた大騎士、エリカ・ブランデッリ。霊視の術に長けた媛巫女で護堂と同じ学校に通う護堂の妹と知り合いの、真面目で道理から外れたことが嫌いな万理谷祐理。サブキャラクターはエリカ付きの世話人、アリアンナ・ハヤマ・アリアルディ。語堂の妹の草薙静花。正史編纂委員会のエージェント、甘粕冬馬。
・シナリオ
神を殺した者は神の権能を得る。そしてその力を得た者は王者『カンピオーネ』と呼ばれ、覇者とも魔王とも称される。そんな高校生・護堂の求めるものは平穏な日々。しかし魔術師にして自称護堂の愛人・エリカがもたらすのは荒ぶる神との邂逅!?さらには、媛巫女・祐理も護堂に接近!?新たな神話を紡ぐバトルファンジー開幕!(裏表紙より抜粋。)
・感想
この作品は所謂第2巻的な立場の第1巻、という感じでしょうか。第0巻とでも言うべき第1巻の『前』の話がすでに起きた出来事としてあり、それを踏まえた背景を持つ主人公やヒロイン達がこの巻で活躍するという形式です。
神の権能―――神の力を操れる存在『王<カンピオーネ>』となった主人公、草薙護堂がヒロインのひとりであるエリカ・ブランデッリに振り回されて戦う事になったりするという典型的な巻き込まれ型主人公と我侭美少女ヒロインによるコメディ・タッチの異能力バトルものかと思いきや―――この作品、一風変わっていましたね。
まず、主人公の草薙護堂ですが彼はただの巻き込まれ型主人公とは少し違います。巻き込まれ型主人公の多くはピンチになった時にそれでもヘタレながら幸運や偶然に助けられて何とか九死に一生を得て、戦いを嫌がりながらも一発逆転する―――というのが多いかと思うのですが、この作品の主人公、草薙護堂はいざとなると戦う事を躊躇わないという主人公にしては覚悟を決めるのが速い、戦場に於いて決断力のある主人公として書かれていましたね。必要な時であれば強大な神の力を行使する事にも躊躇わない、芯の強い人間―――そんな形で書かれていました。その分、女性関係においては尻に敷かれっ放しで、プラスマイナスの帳尻は合わせられていましたが…。
そしてエリカ・ブランデッリと万理谷祐理、この2人がメインヒロインとして書かれていましたが、作中での存在感はエリカに軍配が上がりますか。敵の説明担当、護堂との模擬とは言え決闘シーンもあり、加えて護堂の事を会ったばかりの祐理よりも知っているという事で護堂との距離感も祐理より近しく、極めつけは濡れ場もどきなシーンまで担当となると、護堂の短絡を怒るシーン、気遣いの足りなさを諌めるシーン、いざという所で護堂を信じて見せる役などそれなり以上に見せ場があるはずの祐理よりも、その存在感―――護堂とのパートナーシップを強く見せていたのはやはりエリカでしたね。
また作品の特徴としては、神に関するウンチクが多く出てくるのが上げられるでしょうか。主人公である護堂が殺した神であり、彼が得た権能である『勝利を司る軍神ウルスラグナ』。そのウルスラグナに関する事と、敵として登場するある神に関する説明はそんじょそこらの神様解説書などよりよほど充実した内容ではないでしょうか。
総じてこの作品は、作者先生によるあとがきなどでも書かれていましたが「超必殺技“しか”持たない主人公が神様を相手に戦う話」でした。しかしながら色々と制約の多い上にまだ仔細をわかっていない超必殺技に、護堂は使用条件などがわかっている権能は積極的に使用し、わかっていない権能は手探りの出たとこ勝負で使っていたりで、絶対無敵というわけではなく周りの助力を受けながら戦っていました。その中途半端な強さが、この作品の―――主人公の―――魅力でしょうね。ただ強くひとりで戦えるわけではなく、周りの助けを受けながら戦う強者―――その姿が正にタイトル通り周囲無くしては成り立たない『王<カンピオーネ>』でしたね。