トラジマ!

トラジマ! ルイと栄太の事情

著者・阿智太郎先生。挿絵・立羽先生。阿智太郎先生は第4回電撃ゲーム小説大賞『銀賞』受賞作品「僕の血を吸わないで」でデビューし、以後「住めば都のコスモス荘」シリーズ、「僕にお月様を見せないで」シリーズを初め、「いつもどこでも忍2ニンジャ」「骸骨ナイフでジャンプ」シリーズなど電撃文庫レーベルで数多くのシリーズを持ち、他レーベルではMF文庫Jでアニメ化もして「陰からマモル!」シリーズなどを出している精力的なギャグ小説作家ですね。
・登場人物
メインキャラクターは、主人公にちょっと頼りないが不思議なパンツ『鬼のパンツ』を手に入れた事で凄い力を持つことになる丸見栄太。栄太の持つ不思議なパンツと同種類の不思議なビキニ『鬼のビキニ』を持つ少し前に関西から転校してきた玉井ルイ。そんな2人が出会う『抱きつき魔』が出没する周辺に住んでいてたまたま知り合った栄太にボディガードを依頼する事で関わる出織屋すみれ。
サブキャラクターでは栄太のクラスメイトの佃山雄介。栄太の母、丸見栄子。栄太のクラスメイトで名前とは真逆に凄く腹黒い真白野奈音。
・シナリオ
彼女いない歴16年。高校2年の丸見栄太についにきた女の子からの告白。それは―パンツ見せてくれへん―。
丸見栄太は、ちょっと頼りなさげな高校生。母子二人暮らしで、母親がかなり個性的。そんな母親が、どこぞの古着屋で買って来たシマシマ模様のパンツを穿いたことから、栄太は不思議な力を手に入れることになる。何とこのパンツは正真正銘の鬼のパンツ。京都の寺で厳重に保管されていた、『鬼の衣装箱』から盗まれた呪われたパンツだったのだ。 栄太が得たものは、鬼の力だけではなかった。鬼の衣装つながりで、ルイという女子の友達もできた。そしてさらには……。彼女いない歴=年齢の高校生栄太くん。ちょっと華やかなセイシュンがいま始まる……かも!?(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は、阿智先生独特のテンポで綴られる、ゆるゆるした「そりゃふつ〜ありえないだろ〜!」と言いたくなるような展開が物語を作る不条理的なギャグ小説です。
所謂、虎縞の下着―――『鬼のパンツ』を偶然手にして超人的な力を手にした主人公の栄太と、鬼のパンツと同種類の『鬼のビキニ』を持つ巣玉井ルイの2人が、色々と厄介ごとに首を突っ込んだり或いは鬼のパンツ、ビキニと同種の別の衣服に関わって起こるドタバタ騒動に巻き込まれたり自分から関わったりして、波乱万丈な毎日を過ごす様子を書いている作品、ですね。
作品の設定としての『鬼の衣服』は、色々と制約が多い割に結構な強い力が発揮されますが、それ以外は特殊な来歴とか裏設定とかは今のところ特に無く純粋な物語を面白くする為のスパイスとして効いていて、栄太やルイがそれらに関して右往左往する様子がそのまま楽しめる作品になっていますね。鬼の衣装はハチマキをしていたら効果が発揮されないとか、かなり細かいところで能力が出ないなどの演出があって、それが絵の無い文字中心の小説という作品では読者にも勘違いを引き起こさせるミスリード的な演出になっていたりし、ただのギャグ小説というだけではない、一筋縄では行かない面白さを含んでいます。
が、少々ギャグのセンス的にはマンネリ気味なのも確かでしょうか。かつてのようは爆笑ギャグはあまり感じられず、年月によって面白みの引出しが枯渇し、今では起こりえない事を当たり前に起こるように書き、そのギャップ―――或いは不条理感で笑いを呼び起こしているような気がします。そういう訳で直接的な笑いの話、としては少々面白みの無い作品かもしれません。