葉桜が来た夏

葉桜が来た夏

著者・夏海公司先生、挿絵・森井しづき先生。第14回電撃小説大賞“選考委員奨励賞”受賞作品です。挿絵の森井先生はイラストなどを中心に活動されていますね。何を隠そう、私の部屋に飾られているスティックポスターの1つは、森井先生のイラストによるFate/StayNightの凛とアーチャーのコンプエース付録のおまけポスターだったりします。(蛇足
・登場人物
主人公で幼少期、母と妹をアポストリに殺されて以来アポストリ嫌いとなった南方学。ヒロインで赤目が特徴の『アポストリ』種族である葉桜。
他、学の父、アポストリとの外交において多大な貢献をしている南方恵吾。葉桜の後見人で叔母、恵吾とも深い面識を持つ茉莉花。小柄な体格に無口無表情無愛想だが学にだけは興味を示す、学や葉桜の同級生の岡町灯日。
・シナリオ
アポストリ―身体能力と科学技術に優れた、女性だけで構成される異星人。目が赤いほかは、外見的特徴は人間と同じ。琵琶湖周辺は彼らと人間が共存する居留区となっていた。高校二年の南方学は過去に起きたとある出来事からアポストリを憎んでいた。ところが、“共棲”と呼ばれる居留区のシステムに則り、一人のアポストリと同居することになる。彼女の名は、葉桜―評議長の姪でもある美しい少女だった。二人は激しくぶつかり合うが、その共棲にはある意図が隠されていて―。第14回電撃小説大賞“選考委員奨励賞”受賞作。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品はオカルトテイスト的な設定でSFという、なかなか意表をついてくれる作品です。
赤い目、血を吸う、驚異的な身体能力、銀が弱点―――などの、それだけ聞くとなんて言う妖怪?といった特徴である異星人アポストリ。そんな彼女達と、日本政府―――ひいては日本人が、数多くの犠牲を互いに出してから一定の居住区からアポストリは出ないという事で講和し、住民とアポストリが共棲というシステムなどを経て互いに理解をし合いながら一応の平和を見せている琵琶湖周辺、彦根の町が舞台となります。
話の展開は、母と妹を殺され強くアポストリを憎む学が、アポストリの少女、葉桜と共棲相手として恵吾と茉莉花に紹介されて出会う。衝突しながら生活していくうちに互いに知り合い、打ち解けていく2人。そんな中で終戦記念式典で学と葉桜は打ち解けあえた人類、アポストリ互いの代表として出席するように恵吾に言い渡される。だがその式典会場で、学は恵吾を狙って襲撃してきた母と妹を殺したアポストリ―――<片腕>と邂逅する。彼女と合間見えた時、学がとった選択は―――という感じで。
これは主人公である南方学が、共棲相手として知り合う葉桜と出逢う事でアポストリ憎しの考えに変化を覚え、最後には母と妹を殺したアポストリへの感情を忘れる事は出来ないまでも、それを飲み込んで生きていく道を選べるようになる主人公の内面の成長譚でもありますね。頑なな学が葉桜との生活を通じて、徐々に丸くなっていく姿が特にその辺りを強く感じさせてくれます。
ヒロインである葉桜は、強気でやや思い込みが激しいながらも自分の信じた道を生きようとする強い意志をもった女性でした。それでいて相手―――学を慮る事のできる一面を持ち、自分の人生に信念を持ちながら柔軟さも持てる人としても書かれていますね。
総じてこの作品、種族的には対立しながら講和中という複雑な立場にある主人公とヒロインが、互いを知り合うことで悪感情だけだった出会いから変わっていき、最後には種族を越えた感情を得ていくという内面の成長端的な話ですね。ぶつかり合うだけではなく、話をしていけば分かり合えるのだ、というような理想論ですが、そんな理想に正面から向き合い、人は理解しあえるということを作品として書いている作品―――そんな印象でした。