レンタルマギカ14

レンタルマギカ14 ありし日の魔法使い

著者・三田誠先生、挿絵・pako先生による異種魔法格闘戦ノベル、ですかね。三田先生は他にスニーカー文庫「精獣戦争」シリーズなどを書かれていて、pako先生はPS2ゲーム「シャイニング・フォース イクサ」などの原画を描かれていますね。
・登場人物
この巻では過去の話ということで、先代アストラルメンバーが中心に登場します。
先代アストラル社長、妖精博士・伊庭司。その弟子で錬金術師のユーダイクス・トロイデ。密教僧の隻蓮。陰陽術師、猫屋敷蓮。魔女ヘイゼル・アンブラー。”あの人”の過去の姿と名前、柏原大介。
それ以外では、アストラルへの依頼人という立場で登場するオズワルド・レン・メイザース。オズワルドに連れられてやってくる幼少期のアディリシア・レン・メイザース。アストラルに祖母、魔女ヘイゼル・アンブラーのお使いでやってくる幼少期の穂波・高瀬・アンブラー。
敵側として登場するは”螺旋なる蛇”のメンバー、行者ドゥマ。幽精使いナジム。死霊術師マルチェッラ。以上3人が敵となりアストラルメンバーと魔術戦を繰り広げます。
・シナリオ
「魔法を使わない魔法使い」伊庭司は、錬金術師ユーダイクス、魔女ヘイゼルらと魔法使い派遣会社“アストラル”を創設する。そこへ布留部市という地域の調査依頼が舞い込む。だがその地で待ち受けていたのは禁忌の魔法使い達“螺旋なる蛇”だった。その強大な力で隻蓮、ユーダイクスが倒される。絶対絶命の中、司に反目していた猫屋敷は“螺旋なる蛇”に勧誘される。揺れる猫屋敷の出した結論とは!?現代に続く“アストラル”の謎がここに。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この巻は過去編ということで、今まで存在だけだった人や登場はしたが日常的な姿があまり書かれなかった人の、普段の姿というものを見られます。もちろんそういったサービス的な要素だけでなく、現代編―――社長が伊庭イツキの時代に起きた出来事に繋がるある事件のことが書かれていて、現代編の事件の裏話的な側面もありそういったものを読み取る楽しみもあります。
基本的には1つの事件をオズワルドに依頼されて追いかけていく先代メンバーが、”螺旋なる蛇”のメンバーと邂逅し、各人に思う所ありながら対決したりしていく、というのが話の主な流れです。小説第4巻の話の裏編、的な流れもありますね。第4巻のフィンによる布留部市の竜の孵化事件、その前にも”螺旋なる蛇”のメンバーにより、竜の孵化は狙われていた―――そんな形です。
見所としては、やはり先代社長伊庭司の有り様と猫屋敷の内面の変化でしょうか。イツキの父親がどうやって先代アストラルを運営していたのか、復讐に固執して魔術決闘を仕掛けまくっていた猫屋敷がどうやって変わっていったのか、そういったところが見られ、また語られます。司とマルチェッラとの対決などは、イツキと司の共通点が多く見えたりして、2人は親子であり、またアストラル社長はやはりそういう戦い方になるんだな、と感じましたね。猫屋敷と幽精使いナジムとの会話は、単に『その時』、彼らの前にアストラルがいたかいなかったかというだけの違いを感じさせられます。猫屋敷の独白、「そんな組織が…僕たちなら……昔の僕たちのような魔法使いを、今度こそ救えるんじゃないですか?」というセリフには、猫屋敷が求めていたもの、ナジムや自分への運命に対する憤りと「これから生まれてくるかもしれない自分たちを救いたい」という気持ちに満ちていて、現代編の猫屋敷の内情が窺い知れますね。
またオズワルドが魔法使いとしての活動を見せたりしているのも忘れてはいけませんね。発展途上中のアディリシアとは違い、登場時に既にソロモン72柱の魔神を全喚起しており、『ゲーティア』首領として最強クラスの魔法使いであるオスワルド。そんな彼は第1巻では既に“魔法になり損ねた魔法使い”となっていて、魔法使いとしての活躍はありませんでした。が、この巻では存分に魔法使いとして活動しています。アディリシアがイツキと協力召喚で喚起できる魔神アスモダイが一角を担う“至高の四柱”の別の1柱、魔神バァルを独力で喚起して召喚でき、先代アストラルメンバーと互角の勝負をするドゥマたちをひとりで圧倒します。その姿は、立場や複雑な事情さえなければ今回の事件、ドゥマたちをオズワルドが一人で皆殺しにして終わっていそう、とそんな事態をあっさり想像できそうな圧倒振りでした。
総じてこの巻は、現代編まで続いている“螺旋なる蛇”との因縁が先代アストラルメンバーの時から既に繋がっているものであり、また第1巻や第4巻での事件の影にあった『不幸な偶然』だと思っていた原因が、実はこの先代メンバーたちが手がけた事件に端を発する因縁である事が明かされるなど、色々な現代と過去の繋がりが語られる話でもありますね。
この話は、12年前の過去、先代アストラルメンバーによる黄金期に起きた“螺旋なる蛇”との因縁の一端…猫屋敷の内面に変化をもたらした事件の、オズワルドが道を誤ってしまうきっかけになった呪物を手に入れる事件の、そんな昔の重要な事件のひとつを垣間見る話でしたね。