SH@PPLE1

SH@PPLE〈1〉 (富士見ファンタジア文庫)

SH@PPLE〈1〉 (富士見ファンタジア文庫)

SH@PPLE―しゃっぷる―1

著者・竹岡葉月先生。挿絵・よう太先生。双子の姉弟が、入れ替わって互いの立場になって生活してみるという、2つの学園を舞台にした男と女の入れ替わり物語ですね。
・登場人物
主人公で家事能力が高く成績も優秀、双子の”弟”で一駿河蜜に一目惚れして姉、舞姫の入れ替わり案に乗ることにする淡谷雪国。雪国の双子の”姉”で、青美女学院というお嬢様学校で生徒会長を務め”若光の君”と呼ばれる、今回の入れ替わり案を出した張本人、淡谷舞姫。作品的ヒロイン、青美女学院に通うお嬢様でお嬢様たちのコミュニティ”ソロリティ”の一員で、性格はややきつめの混乱系なB級グルメが大好きだがお姉さまたちには言えないという秘密を抱える一駿河蜜。蜜のことを妹分として可愛がるソロリティの主要メンバー、蝶間林典子。雪国と舞姫の事情を知る舞姫を主と崇めて仕える所謂入れ替えの協力者、久我原さゆね。雪国の友人にして生徒会副会長、篤基史郎。SEC―――空舟エンジョイ委員会―――の会長で女の子たちの味方、芝目夏彦。小柄なSECメンバー大道寺。SECメンバーの巨漢、豆坂。
・シナリオ
憧れの一駿河蜜さん!僕、淡谷雪国は四カ月前、図書館で出会ったときから彼女の夢中。あんな綺麗な子、生まれて初めて見たんだ。彼女は双子の姉、舞姫と同じ青美女学院に通っていて、お近づきになれたらいいな、でも無理だ僕受験生だしー…と思ってたら!チャンスが巡ってきた!?舞ちゃんが突然「ユキグニ、学校交換しない?」って。僕と違って、クールでモテて生徒会長の舞ちゃん。彼女の方にも、入れ替わりたい深ーい理由があるみたい。で、でもね舞ちゃん、それって僕に女装して青美に行けってこと!?女の園で着替えとか…ち、ち、ち、ちょっと待ってよお!?やるなら目指せ一発逆転、禁断のシャッフルラブコメ堂々スタート。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は双子の男と女が互いの目的と少しの悪戯心から、片方は気を使わなくて良い環境での静養の為、片方は淡い恋心を満たすために互いの立場を入れ替え、そんな生活を続けていく内に互いに自分が今いる周囲に様々な影響を与えていく、という、立場が変わったことで起きる”変革”を描いていった作品でしたね。
雪国が舞姫に扮して通った青美女学院では、生徒会と古くからある伝統と格式を重んじる一団”ソロリティ”との対立を、雪国が天然の行動と一駿河蜜との邂逅によって変えていきます。そして舞姫が雪国に扮して通った空舟第五中学校では、ただの美少女研究会と思えたSECが実は裏で多くの女の子たちの悩み相談などに乗ったりしている事実を舞姫が知り、その活動の誠実性、正しさをみんなに知ってもらいSECを正しく評価して欲しいと、こちらもやはり学校内部を変えていきます。そんなそれぞれ別の意味で封建的になっている2つの学校で、互いの立場を変えたがゆえに気付けた事などで雪国と舞姫の2人が奔走する姿が印象的でしたね。ただ、基本的には主人公は雪国であり、舞姫の活動は「雪国が何々していた頃、一方で舞姫は―――」的なものでありスポット自体は確かに舞姫にも当たりますが、メインとして取り上げられているところは少ないです。青美と空舟第五中との間の掛け橋になったくらいでしょうか。この辺り―――舞姫個人の活躍―――は、続刊で期待というところでしょうかね。
この作品の面白い所は、舞台とする学園を完全に両極化したところでしょう。普通のどこにでもある、一般的な進学校―――生徒の大半がなんとなくで生活し、行事に参加し、そうやって受験を迎えていく正に極普通の空舟第五中学。そんな学校とはまったく逆の漫画の世界の学校。学校の中庭に百合やら薔薇やらが植えられ季節ごとにそれが咲き、挨拶は「ごきげんよう」。学内グループは広いダンスホールで社交ダンスをし、早朝朗読会を開いてはボンボンだのマカロンだのを摘みながら詩が朗読される。そんな漫画かゲームにしかないんじゃ?的な青美女学院。その2つの学園の対比とそこに通う互いに別々な環境で暮らしてきた雪国と舞姫の戸惑い振り、苦悩振りが二重に面白みを出していました。
全体的な印象としては、遊び半分で入れ替わり生活を始めた双子が、それを続けるうちに自分が今いる場所で出来る事、やれる事、やっておきたい事に気がつき、真剣に、全力で立ち向かっていく―――そんな、少年と少女の成長と新しい発見の話だと思いましたね。それと同時にラブコメとして初めは邪険にされ部屋から締め出されたりし、ラストに至ってもその想いは空回るがそれでも蜜一筋の雪国の一途な愛の物語でもあり、と。そんな風に最初はふざけ半分の様な気持ちの上が、話が進むに連れて至極真面目な話―――真剣に一駿河蜜や蝶間林典子のことを考えたり、SECの立場向上を目指したり―――に変わっていくのは盛り上がりましたね。その辺りの文章運びが上手いのでしょうね。